モスクワでの大停電と火事にテロの可能性はあるか?

バサーエフの二つの犯行声明を見ていて、いまのところこう考えています。

モスクワの当局がテロの可能性を否定し、政権からにらまれている統一エネルギーシステムズのA・チュバイスが査問されているところからすると、今回の停電は、単に熱波による設備のオーバーヒートか、チュバイスおろしのために仕組まれたものではあっても、バサーエフの声明の方は「便乗」のような気がする。
「モスクワで一日何件火事があると思うんだ」アメリカのチェチェンウォッチャーたちの意見をまとめると、劇場での火事はそんなひとことにつきる。原文は読めないが、コメルサント紙にはそういう意味の記事が載ったようだ。「スタニスラフスキー劇場は2003年にも火事になり、修復したところだった。モスクワ全体の劇場で言うと、2003年以来8件の類似の火事が起こっている」と。( http://www.kommersant.ru/doc.html?docId=581175 )

こうした報道が、事態を沈静化しようとするロシア政府側の思惑によるのかもしれないとは、思う。まあ、ロシアの政策もバサーエフも、狂っちゃってることは両方とも間違いないので、ここから先は病理の専門家の出番かと思います。

ただし、モスクワ劇場占拠事件のようなことをバサーエフが実行できるなら、今回のようなこともできるだろうし、したくなるだろう。予言したからには。

バサーエフの仕業でなかったとしたら、今度の事件から、何を引き出せばよいだろう。まず、いい加減な声明が飛び出すことがありうるということ。そして、過去の声明もいい加減だったかもしれないこと。こういう事件を起こすのはむずかしくなさそうなこと。

2004年の飛行機同時墜落事故のとき脳裏をかすめたのは、私がモスクワに行ったとき、国内線の空港で一緒にいたロシア人が、機内持ち込み荷物のタグを落としてしまい、大急ぎで航空会社のカウンターに戻ったときの様子だった。どうするのかと思って待っていたら、すぐ新しいタグをもらってきた。小銭で買ってきたらしい。これではテロなんか防げないと思った。

いとも簡単にテロ事件が起こせるとしたらロシアの市民の命は風前の灯火かもしれない。が、ちょっと待ってほしい。チェチェンで失われた命は、わずか10年の間に20万人。4人に一人がロシア軍に殺された。それに抗議をしなかった人には、私も含めて、今になってテロを一方的に非難する資格なんかないのではないか。このテロを終わらせるために必要なのは、戦争を終わらせることだ。具体的に言うと、マスハドフを殺すことなんかではなく、チェチェンを尊重し、和平交渉をし、その上で、バサーエフをまじめに探して逮捕することだ。すべての経過を通して、プーチン政権の責任は圧倒的に重い。

参考までに、27日のAP電によると:「ヴィクトル・フリステンコ工業資源相は、「これはテロではないと考えてます。われわれの使っている設備は1958年からのもので、古くて更新が必要だったんです」と語った。(APはなぜかここで飛躍するが)この種の矛盾する声明は、2003年のアメリカとカナダでの大停電でも起こった。アブ・ハフス・アル・マスリ旅団と名乗る者が、これに犯行声明を出した。結局捜査の結果、この可能性はすぐになくなった。今回の停電は、季節はずれの熱波のさいに起こった。温度は華氏86度に達していた。統一エネルギーシステムズのアナトーリー・チュバイス会長は、この停電について強く批判されている。モスクワ検察庁はチュバイス氏を拘束して事情を聞いている」