アルハーノフVSカディーロフ:チェチェン親ロシア派内部抗争始まる?

今年の10月5日に30歳のお誕生日を迎えるチェチェンのプリンス、ラムザン・カディーロフ。対独戦勝記念日のパレード中に爆殺されたアフメッド・カディーロフをパパに持つ華麗なる血脈(意味不明)を継ぐ彼は、国内外から最年少のチェチェン親ロシア派大統領候補として注目されている(ただし対立候補なし)。ラムザンは、ロシア軍と結託してチェチェン市民の拉致監禁・人身売買ビジネスに手を汚してきた、いわばチェチェン戦争のA級戦犯。彼がチェチェンを率いている限りチェチェンの未来は黒薔薇色という人物で、それだけに戦争を続けようとするロシア政府には重宝されてきたのだが・・・。

栄光か没落か

けれども、長年にわたってチェチェンを始めとする北コーカサスを取材しているロシア人ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤは、ラジオ・リバティの北コーカサス支部での最近のインタビューや、8月14日付の「ノーヴァヤ・ガゼータ」の記事の中で、ついにロシア指導部さえラムザンのあまりの増長振りに手を焼いて、7月にグローズヌイを訪れた閣僚がラムザンに対して服従命令を出したことについて述べている。

さらにポリトコフスカヤは、治安部隊の一部がラムザンに対して「反乱」を起こしており、アフメッド・ハッジ・カディーロフ(というラムザンの亡くなった父親の名を冠した)基金に毎月決められた税率を給料から支払うことや、ラムザンのもとで働くための契約を更新することを拒否していると主張している。

ラムザンは、8月14日付の「ネザビシマヤ・ガゼータ」のインタビューに答えて、チェチェン共和国の大統領の地位に就くには自分が未熟であると語り、―100%確実だというわけではないにせよ―政治の世界から身を引くことを希望していると述べた。

カーネギー・モスクワ・センター*1のアレクセイ・マラシェンコは、8月15日の「ノヴイェ・イズベスチア」の中で、モスクワがラムザンにイスラム会議組織の終身代表といったような名誉職を与えて、彼を左遷してしまうかもしれないという発言をしている。

アルハーノフの動向

一方、(チェチェン親ロシア派大統領の)アルハーノフは、彼自身が解雇されることについて最後の悪あがきをしているようにも解雇をあっさり受け入れようとしているようにも見え、モスクワによるラムザン排除の動きに呼応しているようにも見える行動を取り始めている。8月11日、アルハーノフは、人権問題および法と秩序、そして経済的・社会的安全保障に関するチェチェン政府と連邦機関の相互作用について扱う諮問機関の設立に関する法令を発布した。こうした領域は、これまでラムザンやその取り巻きたちが、違法な振る舞いを極めてきたものである。

アルハーノフの8月11日の法令によって、チェチェン共和国の安全評議会は、経済社会安全評議会に再編された。彼がそのような再編を行った理由は、8月14日付の「ネザビシマヤ・ガゼータ」によると、治安部隊が地方に蔓延する腐敗に対して無力であり、犯罪者を裁判にかけることもできていないからだという。

アルハーノフはまた、新たな安全評議会の書記長として、彼の前首席顧問であり、2004年に彼の選挙キャンペーンを指揮したゲルマン・ヴォクを任命した。8月14日付の「ネザビシマヤ・ガゼータ」には、安全評議会の再編が行われるまで彼自身も政府高官もチェチェン議会もそのことを知らされていなかったというラムザンの発言が引用された。けれども、アルハーノフが組織の再編を行ったということは、クレムリンの事前の許可があったということに他ならない。

評議会対軍部

chechnya.gov.ruによると、新たな安全評議会の最初の会期は8月15日に始まり、グルジアに国境を接するチェチェン南部の状況が議題に取り上げられたという。現地のチェチェン親ロシア行政当局は、ロシア軍部による市民に対する帰宅妨害や違法な伐採を告発した。regnum.ruが8月16日に伝えたところによると、ヴォクは、そうした違法行為を否定または軽視しようとしたロシア連邦国境警備庁長官(代理)のウラジーミル・ポノマルヨフの主張をはねのけたという。

ヴォクはさらにチェチェン市民とロシア軍部の間の「誤解」を処理する委員会を設立することについて述べた。7年におよぶそうした「誤解」の主要な原因は、ロシア軍部がチェチェン市民に対して続けてきた見境のない暴力である。

だが、2004年5月にラムザンの父親がテロリストによって爆殺されてからは、ラムザンの指揮下にある警察組織が、ロシア軍部以上にチェチェン市民の殺害や誘拐に手を染めてきたと指摘する識者もいる。したがって、もしもロシア軍部の違法行為を防ぐために有効な手段が取られてきたとアルハーノフが主張するのであれば、今後起こる犯罪行為の責任は、すべて必然的にチェチェン治安当局―そして治安当局の最高責任者であるラムザン・カディーロフ首相―に帰せられることになる。

*1:ロシアの有力民間シンクタンク