No.279 アンナ裁判など

チェチェンニュース No.279 アンナ裁判など

きょう2月23日は、チェチェン・イングーシ人の強制移住記念日です。
最近の出来事についてまとめます。

なお、明日24日、NHK-BS1の「きょうの出来事」で、ロシアでの相次ぐ暗殺についての番組が放送されます。イベント欄をご覧ください。

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INDEX

 *強制移住記念日
 *アンナ・ポリトコフスカヤ裁判、被告人全員が無罪に
 *ティムールくん送別会の報告
 *村上春樹氏、エルサレム賞を受賞
 *イベント情報

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強制移住記念日

きょう2月23日は、チェチェン・イングーシ人の強制移住記念日です。1944年のきょう、スターリンによって、チェチェン人たちが強制的にカザフスタンなどの僻地に移住させられ、当時50万人ほどの民族のうち10万から20万人が、故郷に戻れずに死亡しました。

この悲劇は、アナトーリー・プリスターフキンの小説「コーカサスの金色の
雲」(群像社刊)に詳しいので、機会があったら、ぜひ読んでいただきたいです。チェチェン問題と呼ばれるものがなぜあるのか、そしてなぜ解決できないのかが、時代を越えて理解できる作品だと思います。

http://gunzosha.com/books/ISBN4-905821-90-8.html

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アンナ・ポリトコフスカヤ裁判、被告人全員が無罪に

モスクワで続いていたアンナ・ポリトコフスカヤ殺害事件の裁判は、19日木曜に陪審に回され、容疑者の全員(ロシア内務省元職員1名、チェチェン人2名の計3名)が無罪という評決が出た。

この件、日本のマスコミ各社でも報道されている(次のURL参照)。アンナの家族は、今回「無罪」となった被告人たちが犯人だと信じているのだが、それを立証すべき検察官がヘタレだったために、陪審員たちが「疑わしきは罰せず」で無罪にしたということのようだ。

ラジオ・リバティのある記者は、検察側の論証は「私たちから見ても説得力がない」ものだったという。証拠の水準も低かったので、陪審の結論は妥当だったと、
ロシアのマスコミではそういう部分が評価されているようだ。

それにしても、真実はどこにあるのだろう。ラジオリバティも含め、興味深い記事をまとめたので、ぜひ次のURLをお読みください。

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090221

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■ティムールくん送別会の報告

予定どおり、16日月曜に開かれました。彼が日本に持ってやってきたビデオ作品「春になったら」や、最新の卒業制作作品や、友達の店で頼まれたメニューのデザインを見せてもらい、集まった20名ほどのチェチェン関係者で、順番にスピーチをして歓談しました。

事前にいろいろな方からお預かりした餞別も渡すことができました。本当にありがとうございます。

さて、日本に来ているチェチェン人を何人か知っていますが、何となくみんな、元気がない感じがします。将来が不透明だからでしょうか。日本人でさえ仕事がなかなか見つからない時代に、小規模なコミュニティーさえ持たないチェチェン人留学生や難民には、苦しい時代です。

それから、日本の社会というものが成熟しすぎていて、新しい挑戦を必要とするような未完成の部分が見つけにくいということがあるかもしれません。

つきつめると、社会に参入するチャンスが少ない。日本の若者にとってもそうですし、日本で生きようとするチェチェン人にとってはなおさらだと思います。

新宿の街の天を突くようなビルを見上げながら歩いていると、ここに来たチェチェン人は、最初はすごいと思っても、そのうち滅入るかもしれないと思いました。希望が見つからないところでは、そういうものは壁のように見えるから。

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村上春樹氏、エルサレム賞を受賞

壁で思い出したので、この話題を。イスラエルの新聞ハアレツが主宰する「エルサレム賞」という文学賞に、村上春樹氏が選ばれたので、インターネット上では一時話題になっていた。

受賞すべきか、辞退すべきか、それとも受賞しつつ、体制側の思惑をはねのけて、講演で言うべきことを言うか。

結局、村上さんは受賞しつつ、次のような講演をした。

  もしその「壁」が——その壁にぶつけられる「卵」が壊れてしまうほど固く、高いものであるならば、どんなに「壁」が正しくとも、どれほど「卵」が間違えていたとしても、僕は卵のそばに立つでしょう。なぜか? 僕たちひとりひとりが、その「卵」だから、かけがえのない魂を内包した壊れやすい「卵」だからです。

http://d.hatena.ne.jp/sho_ta/20090216/1234786976

私は村上さんの作品を読んだことがないので、どんな自分の意見を持ったらいいか、わからなかった。文学の話題なのだから、その人の作品を少しでも読んでから語りたい。

それでも、今度の顛末で知ったのは、村上さんが勇気を持って、イスラエルの今の体制の思惑にとらわれずに話をしたということだ。それでいて、この「卵」というのは、体制に疑問を持つイスラエルの人々のことでもある。

卵は命で、壁は石でできている。壁は固いけれども、古びていくし、人が作った以上、人が解体できるものでもある。

こんな風に思う。私たちひとりひとりは、弱い人間でかまわない。弱いからこそ、疑問を持ったり、他の弱い人のことが理解できるようになりはじめ、今の世界を変えたいという「大それたこと」まで考えるようになる。

そんな立場から見れば、変えるための手段は、少なくとも戦車や軍艦ではない。
だから、村上さんは語ることを選んだのだと思う。あの比喩が、一見、壁の向こう側にいるように見える人々と、私たちをつなぐものになる時が、きっと来ると信じたい。

(大富亮)

   村上春樹のスピーチを訳してみた(要約時点)進化版Ver.3.0
http://d.hatena.ne.jp/sho_ta/20090216/1234786976

   拝啓 村上春樹さま ——エルサレム賞の受賞について
   http://0000000000.net/p-navi/info/column/200901271425.htm

追記: 微温的なものーーつまり、切り取り方によってはどうとでも読めるスピーチだという批判もあった。実際、起き抜けに東京新聞の紙面で読んだときの私の印象もそうだった。

実は大切な発言ではないかと思ったのは「どれほど卵が<間違えて>いても」という言葉があるからだった。それでも弱い者の側に立ちたいという言葉には、やはり意味がある。

これとて乗っ取られやすい言葉にはちがいないけれど、、、。

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■イベント

● 2/24 BS-1:きょうの世界特集11時台「ロシアで相次ぐジャーナリスト殺害」

http://www.nhk.or.jp/kyounosekai/


● 2/28 飯田橋:出版記念報告会
チェチェン民族学序説ーその倫理、規範、文化、宗教=ウェズデンゲル」

チェチェン人として生きるための教え、「ウェズデンゲル」が、
ついに日本語で出版されます。チェチェン共和国憲法(全訳)や、
チェチェン・ロシア間の条約なども所収。興味津々の一冊。

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090210/1234238181


● 2/28 文京:ポスト・アパルトヘイトの経験とイスラエルパレスチナ

イスラエルアパルトヘイトは、南アとの共通性を持つ半面、
解決はそれ以上に困難と見られている。「和解」の問題を参照しつつ、
歴史から学びうる可能性を追求する。

http://midan.exblog.jp/


● 3/7 町田:『タクシー・トゥ・ザ・ダークサイド』上映会

アフガニスタンのタクシー運転手ディラウォルの死。
「殺人」と書かれた米軍による死亡証明書を読めない家族。
誰が、何のためにディラウォルを殺したのかを追う記者たち…。
グァンタナモの実態に迫る。日本劇場未公開作品!

http://www.amnesty.or.jp/modules/piCal/index.php?action=View&event_id=0000002102


● 3/7 神谷町:ガザが語る、パレスチナの将来
ーーイスラエルによる占領を読み解く

ガザ侵攻は、すでに破綻していたオスロ合意以降の混乱を、
取り返しのつかない段階においやった。
ガザに滞在しながら長年フィールドワークを行ってきた研究者、
サラ・ロイ氏と、ジャーナリストの小田切拓氏が今後を語る!

http://midan.exblog.jp/10866522/

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■映画・写真展など


●『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

孫へのまなざし 平和への祈り ロシアの見たチェチェン

http://www.chechen.jp/


● 『★CHEチェ 28歳の革命 39歳別れの手紙』

カストロとともにキューバ革命を成功に導いた、
チェ・ゲバラの生涯をソダーバーグ監督が映画化

http://che.gyao.jp/


● 『シリアの花嫁』

もう二度と帰れない。それでも私はこの境界を越えるーー
イスラエル占領下のゴラン高原
若き娘モナがシリア側に嫁いでゆく、一日の物語。

http://www.bitters.co.jp/hanayome/


 ●『ビリン・闘いの村』

パレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸のビリン村。
若者たちは非暴力の闘いに立ち上がった。

http://www.hamsafilms.com/bilin/

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  発行部数:1575部 発行人:大富亮
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