チェチェン問題公開ディベート 岡田一男vs.菊池由希子

「テロと暗殺のはざまで 世代の壁は超えられるのか? コーカサスに平和を実現するために」

日時:2010年6月12日(土曜日)18:30-21:00 
場所:文京シビックセンター5F会議室C(席数72/予約不要) (地下鉄後楽園・春日駅の真上)
参加費:1000円

共催:チェチェンの子どもたち日本委員会/日本国際フォーラムチェチェン問題研究会(代表伊藤憲一
後援:チェチェン連絡会議 

菊池由希子(国際関係スペシャリスト)
岡田一男(チェチェンの子どもたち日本委員会)

 菊池由希子さんは、2008年夏まで5年間、モスクワ国立大学で「チェチェン難民問題と露欧関係」や「コーカサスにおける平和構築」などを国際政治学専攻の立場から学ばれ、チェチェン戦争で傷ついた難民少年を救おうと「イムラン基金」をつくられました。彼女は、2008年9月はじめ、卒業後の里帰りから、博士課程に進学予定で、日本からモスクワに戻ると、有効なロシア入国査証を保持していたにもかかわらず、入国禁止処分が出ているとして、シェレメーチェボ空港から強制送還されました。日本国外務省を通じて出された理由開示請求には、「ロシアの国益を妨げた場合、その外国人の入国を拒絶することができる」と言う法令が適用されたという回答だけで、彼女のいかなる行為が、それに該当したのかも明らかにされていません。これは、現代ロシア国家の体質を如実に物語る事例です。以後、1年半以上を菊池さんは、フランス、パリをベースに、西欧諸国のチェチェン難民青年たちの実態に触れられて来ました。

 一方、映像作家である岡田一男は、1960年代に、全ソ国立映画大学で、劇映画演出を学び、さまざまなソ連構成共和国出身の若者たちと交遊する中で、全体主義国家ソ連の多くの矛盾を、彼らと共に体感する機会を持ちました。師であったソ連映画の巨匠ミハイル・ロンムが、これ以上、嘘はつけないと劇映画制作を放棄したことは大きな衝撃で、日本左翼運動との決別ともあいまって、結局、科学映像制作という道を選択しました。しかし、目の黒いうちには、起こりえないと思っていたソ連崩壊を予感した1990年代初め、ともに映像人類学に携わる後輩のラトビア人映像作家が、祖国での取材中に背後から銃撃され、殺害される事件を経て、彼の遺志を分かち合おうと、旧ソ連問題に再びコミットするようになり、はやくも20年近くになります。バルト諸国、シベリア、中央アジア、そしてコーカサス旧ソ連のあらゆる地域で、市民の権利、民族の自由が抑圧されてきました。こうした矛盾の最大のホットスポットであるチェチェンにも、必然的に関わることになりました。

 菊池さんは、年齢的には、英国にいる岡田の孫と数歳しか違いません。同じくロシアに学び、チェチェンに関わっているという共通項がありますが、見ている見方は、大きく違っています。そこには世代による、ものの見方の大きな違いがあり、つきあっているコーカサスの人々の見方の違いが、鋭く反映しています。菊池さんの一時帰国を受けて、緊急に両者による公開ディベートの会を開催します。

 これは、岡田と菊池さんが、コーカサスの人々のソ連世代と、戦争世代のそれぞれの代弁者としてのディベートです。岡田の友人であるチェチェン人たちは、多くが岡田のソ連留学時代(1960年代前半)に生まれた人々です。そういう意味では、岡田よりも、むしろモスクワで生まれ、中央アジアキルギスで育ち、モスクワ大学で芸術学を学んだ、岡田の上の娘に近い年齢層です。彼らは、いずれも旧ソ連全体でも一握り、というような高学歴の持ち主たちで、いわゆる「過激派」・「ワハビート」といわれる人間は、皆無です。一方、菊池さんのチェチェン人の友達は、ほとんどが、まともな教育を受ける機会がなく、戦争しか知らない世代です。その多くは、マスコミの言う「過激派」と呼ばれる範疇に入ります。

 そこで、これがリアルな西欧に流れたチェチェンの若者たちの精神世界だという部分を菊池さんに代弁者になって紹介してもらいます。フランスの移民問題も同様です。サルコジ大統領に、人間のクズと呼ばれる若者たちは、努力だけでは、とても這いあがれないほどに、フランス社会で孤立させられています。

 岡田と菊池さんが、お互いの世代の主張をぶつけあいながら、その中で共通の目的であるコーカサス地域の平和について、相互理解を深め、世代の格差を乗り越えて、日本がこの地域の民衆の幸せのために、何ができるかを考えていきたいと思います。

来場者に理解してもらうための一例

 モスクワ・地下鉄テロ事件の犯人と言われている二人の女性たちは、実際に自爆したかもしれないし、していないかもしれない。来場者はしていないことを信じたいだろうが、実際には今、ダゲスタンの若い女性たちが、自爆してもおかしくない社会状況と精神状況にあることを菊池さんが、紹介します。

「私たちの世代は戦争しかみてない。教育も職業訓練もろくにうけていない。政治はこんなにも裏切ってきた。平和などもたらさなかった。ソ連世代(親世代)は、戦争のない時代に、教育をうけられて、仕事につけて、若者らしい暮らしが営めた。自分たちがチェチェン独立で盛り上がったくせに、今ではロシアのいいなりになって、警察で働く裏切り者になった親世代も少なくない。でも、私たちの世代は、自尊心も名誉も傷つけられてきた。小さな子どもたちは明日の希望として重宝されるが、ちょっと大きくなった自分たちは、親世代から原理主義者(ワハビート)の馬鹿者として扱われる。

難民としてヨーロッパに逃れても、難民認定をとるのも難しく、ヨーロッパの国でも、結局誰にも必要とされない、誰にも自分の存在を認めてもらえない。それよりなら、殺されるとはわかっていても、コーカサスに戻って、戦って名誉の死を遂げよう。殉教者(シャヒ−ド)には天国が約束されている・・・」

そう思い悩むのが菊池さんたちの世代の多くのチェチェンの若者たちです。若者の心の痛み、社会からの疎外感、傷ついた自尊心、そういう観点から、ソ連世代である岡田と、どうやって、この世代間の考えの格差をなくし、一丸となって平和な未来を築けるかについて、だんだん共通の理念や、それを実現するための方法を見出していく。そして来場者に政治的面だけではなく、もっと精神的面を理解していただき、コーカサスの問題について考えてもらう機会を提供したいと思います。

チェチェンの子どもたち日本委員会
Japanese Committee for the Children of Chechnya
共同代表:林克明(フリージャーナリスト) 岡田一男(映像作家) 姜信子(作家)
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