#394 訃報:三浦みどりさん

 アンナ・ポリトコフスカヤの「チェチェン やめられない戦争」の翻訳者である、三浦みどりさんが、12月13日の早朝に、ご逝去された。直腸の悪性腫瘍にて闘病中だった。葬儀は19日に無宗教で執り行われた。享年63歳。

 チェチェンニュースを2001年に創刊して以来、一貫して賛同して下さって、さまざまな貴重なロシア語の記事を翻訳し、提供された。ポリトコフスカヤものに関しては「背中を撃たれた将軍/消えた村にて/アンジェラ」という記事を、突然、全訳して寄稿されたことをよく覚えている。

( http://chechennews.org/chn/0345.htm )

 ただ、ネットで流すにはあまりにも長いと感じられたので、私はおそるおそるデリートキーを押していき、とうとう半分以下の長さにまで短縮してしまった。そんな乱暴な〈整理〉を見ても「よくぞやってくれました」と、喜んでくれる人だった。細部はとにかく、みんなに一刻も早く伝えてほしいという危機感や熱望が、三浦さんのメールからは伝わってきた。

 この時の記事がきっかけのひとつになって、「チェチェン やめられない戦争」がNHK出版から刊行され、それから次々にチェチェンについての本が出版されるようになった。

 三浦さんは、確かチェチェンに行ったことはないはずである。それなのに、どうしてチェチェンにこだわり続けたのか。手元に群像社の「群」というニュースレターの1996年の号がある。日本のチェチェン支援運動が動き始めるもっと前に、三浦さんは、アナトーリー・プリスターフキンの小説「コーカサスの金色の雲」(群像社)を翻訳されていた。

 「コーカサスの金色の雲」の、ロシア人少年サーシカとコーリカは、思いがけない形でチェチェンと出会う。この二人は、三浦さんの心の中のマスコットのようなものだったのではないかと思う。

 そして、誰もチェチェンを知らない中、三浦さんは雑誌やミニコミに書く場所を見つけては、エリツィン時代のチェチェン侵攻のすさまじい実状──現地から国際赤十字も報道関係者も追い出して行われたセルノボツクの破壊を伝えていた。インターネットはまだなかった。意図していたわけではないが、チェチェンニュースはその頃の三浦さんの孤独な仕事を引き継ぐものだったと思っている。

 三浦さんが伝えたかったメッセージは何だったのか。

 それは、ロシアを知り、愛する人々こそが、ロシアがチェチェンでしている愚行に気づかなければならない、気づいた人は、何らかの行動を。それができないのなら、せめて目撃し続けてほしい・・・というものではなかったろうかと、私は想像している。少なくとも、〈目撃〉という部分は、三浦さんと私が何度も確認しあったことだった。そして、チェチェンにかこつけた反ロ的な言論を何より嫌った。

 チェチェン支援に、はかりしれない貢献をされた三浦みどりさんのご冥福を、心からお祈りします。三浦さん、本当にありがとう。


 大富亮/チェチェンニュース
 2012年12月26日

=======================================================================

チェチェンニュースは、ロシアによる対チェチェン軍事侵攻と占領に反対し、平和的解決を求める立場から発行している無料のメルマガです。2001年から発行しています。
▼新規購読はこちらから: http://chechennews.org/ (チェチェン総合情報)
▼発行継続のためのカンパをおねがいします。いくらでもかまいません。
▼ 〈郵便振替口座番号 00130-8-742287 チェチェンニュース編集室〉
〈ゆうちょ銀行 019店 当座 0742287 チェチェンニュースヘンシュウシツ〉
ツイッター: @chechennews
▼転送・転載・引用歓迎です。商業媒体への転載の際は事前にご相談ください。
▼よろしければご意見、ご感想や情報をどうぞ: editor@chechennews.org
▼発行部数:1315部 発行人:大富亮

====================================