ご投降は計画的に・・・

8月8日、チェチェン親ロシア派政権大統領のアル・アルハーノフは、政府が「恩赦」を宣言したことによって、すでに84名の独立派戦闘員が投降したと語った(8月8日付 ラジオ・リバティ)。「恩赦」というのは、ロシア政府がバサーエフの死を受けて独立派に呼びかけたもので、一言でいえば「今なら投降しても身の安全が保障されます」という口約束。なんだか「1週間無利息キャッシング・ノーローン」という消費者金融のキャッチコピーみたいである・・・。


8月9日付のプラハ・ウォッチドッグによると、ロシア政府はこれまで幾度もこうした「恩赦」を発表しているが、「過去に当局を信じて投降した何百人もの人々は、誘拐され、殺害され、行方不明になってしまった・・・この恩赦によって、武器を捨てた人々が本当に普通の生活に戻れるとは思えない」(ドゥクヤハ・サラモフ 46歳 グローズヌイ市民)という。

投降した戦闘員に関する報告を調査しているNGOの活動家は、「『自発的に投降した』と言われている人々は、実際には、そもそも戦闘員ではないか、戦闘員に何度も武器を供給していた人々にすぎない」と述べている。

2人の息子を亡くした母親のマッカは、「恩赦」宣言はロシア政府がチェチェン独立派を脅威に感じている証拠であると指摘する。「(チェチェン親ロシア派政権首相の)カディーロフは、チェチェン共和国には、60〜70人ほどの戦闘員と200〜300人の外国勢力しか残っていないとTVで語っていましたが、本当にそれしかいないというなら、わざわざ恩赦など宣言するはずありません・・・思うに、これはよくある当局のPRの一つで、独立派はまだかなりの勢力を保っているのではないでしょうか」

今さらのことだが、チェチェンにはジャーナリストが自由に入れない。だから、多くのことはただ推測するしかないのだが、上記の3名の発言をつなぎ合わせると、ロシア政府の「恩赦」は、その実態・効果ともに誇大広告である可能性が高い。喩えれば、(利用者が1週間以内に元金を返しに来ると決まって担当者が行方不明になる)「1週間無利息キャッシング・ノーローン」を始めたヤミ金が、思うように利用者を増やせないので、通行人をラチして無理やり金を貸し付けている状態・・・のようなものだろうか。何しろ「自発的に投降した」という証拠は、当局の発表以外、何もないのだから。

また、仮に独立派戦闘員が「恩赦」を求めて「自発的に投降した」場合にも、彼らを日常生活に復帰させるための支援はいっさい行われていない。米国でもイラク帰還兵のホームレス化が問題になっているが、ロシア政府の責任を問うことなくチェチェンに「安定」をもたらそうとする試みは、ロシアにとっての終わりなき9.11を産み落とすことにならないだろうか。