イングーシは「第二のチェチェン」になるか?
―殺人、路上での銃撃戦、「掃討作戦」…打ち砕かれる安全地帯―
ウマルト・ドゥダーエフ、カラブラク (CRS No.412 2007年9月27日)
原文:
http://www.iwpr.net/?p=crs&s=f&o=339367&apc_state=henh
イングーシ第二の都市カラブラクの入口には異様な光景が広がっている。検問は強化され、今や連邦軍の装甲車がひしめき合っている。
道はコンクリートのブロックで遮られ、ドライバーは縞模様のフェンスの前で迂回しなければならない。フェンスには警告が貼られている。「停車!エンジンを切って検査を待つこと」
兵士と警官が、車を選び、乗客の身元をチェックし、車内を捜索する傍らで、軍用人員運搬車が道に溢れかえっている。
まるで数年前のチェチェンのようだ。
けれども、隣国のチェチェンは、ソビエト連邦の崩壊後、独立派が二度にわたってロシア軍と熾烈な戦いを行ったものの、情勢は沈静化しつつある。チェチェンと同じ民族からなるイングーシは、かつては比較的平和であると言われていた。それが今では様変わりしてしまった。
この夏に起こった一連の爆破事件と殺害事件を受けて、モスクワはイングーシに増派部隊を送った。主な町と村の外側には検問所が設置された。
9月17日の夜、イングーシの治安の悪化を象徴する殺害事件が、ガジ・ユルト村近郊で起こった。FSB工作員のアリハン・カリマトフ少佐が、正体不明の武装集団に殺害されたのだ。カリマトフ少佐と共にいた旅行者は重傷を負って入院した。襲撃者たちは―今やお決まりのことだが―逃げおおせた。
「私にとって恐ろしいことは、殺害事件や襲撃事件が断続的に起こるようになったことではなく、私たちがそれに慣れてしまってきたということです。路上での銃撃、いわゆる『掃討作戦』、市民に対する違法な拘禁、完全武装の兵士たち…そうしたものが今ではごく普通になってしまいました」と、ナズランに住むタミラ・バラホエヴァは語る。
「誰もが怯えきっています。明日どころか一時間後に何が起こるかもわからないのですから。ですが、私たちにはどうすることもできません。つい最近、当局は集会とデモを禁止しました。私はこれがチェチェンで起こったような『対テロ作戦』の始まりになるのではないかと恐れています。私には成人した子どもが二人います。彼らはどうなってしまうのでしょうか?」
イングーシは、最近まではちょっとした安全地帯であり、平穏であると見なされていたが、この春には情勢が著しく悪化し始めた。イングーシ共和国のムラート・ジャジコフ大統領のおじ、ウルスハン・ジャジコフの誘拐に対して、治安当局が過剰反応したことに責任を求める人々もいる。
「すべては3月の誘拐の後に始まったのだと思います。治安当局は、誘拐された人物の息子が率いていたため、終わりのない襲撃が始まりました」と、地元に住む33歳のクレイシュ・エヴロエフは言う。
「軍隊も『掃討作戦』と『特殊作戦』と拘留に加担しました。その後、警官に対する襲撃が始まったのです。ジャジコフの家も襲撃され、顧問のバッハ・ヴェジエフが殺害されました。ロシア語を話す住民も殺され始めました。反乱軍に責任があると考える人もいますが、そうでない人たちは、『第二のチェチェン』を作り出すために、兵士と警官が故意にこうした行為をしていると考えています」
モスクワは、警官への襲撃と、7月18日のロシア人家族の殺害を受け、一帯の治安を強化するために、内務省から職員を派遣した。数日後、イングーシの行政上の中枢マガスにあるFSBのビルが襲撃された。
8月8日、2500名以上の連邦軍と装甲車がイングーシに送られた。ところが、この措置は効果をもたらさなかった。ダゲスタン人とジプシーを含むロシア語を話す住人が、さらに数人殺害された。警官と兵士への襲撃も続いた。
イングーシの住民の多くは、兵士の増派が実際には情勢を悪化させることになったと確信している。彼らは、ロシア内務省が駐屯する前には、マルゴベク村で警官に対する本格的な襲撃事件が起こったことはなかったと主張している。これと同じことがナズラン地区でも起こった。正体不明の武装勢力が兵士の駐屯地と検問所を定期的に襲撃している。
「兵士の増派を正当化するのは不可能です。11月以降、ゲンナディ・イワノフ陸軍少将の指揮下にあるロシア内務省臨時部隊がここに駐屯しています。どの警察署にも25名から30名の内務省職員が増員されました。もはや内務省が二つあるようなものです」と、人権団体MAShRのマゴメッド・ムツォルゴフは語る。
「ですが、増派部隊の投入といった事態は、状況を安定化させるわけではなく、むしろ悪化させています。内務省部隊の兵士たちは、すでに若者の誘拐や殺害に手を染めています」
プーチン大統領のロシア南部管区使節ドミトリー・コザックは、9月17日、イングーシの治安の悪化はもうじき行われるロシア下院選挙と連動していると述べた。
「我々は以前からこうした事態が起こることを予測していました。それが選挙の前になったことはごく当然です」と、彼は報道陣に語った。「権力を得ようとする政治勢力は、こぞって状況を利用しようとするでしょう。これは完全に予測できたことであり、我々にはそれに対する備えがあります。人々の良心に訴えることは無意味であり、討伐軍を差し向けなければなりません」
当局は総じて楽観的である。元FSB大佐のムラート・ジャジコフ大統領は、ロシア紙イズベスチアに対して、メディアが状況を誇張していると言う。
「最近メディアが報じていることは、ロシアと不安定な世界に向けて、連邦当局と地元当局が脆弱であるというイメージを植えつけようとする、イングーシ共和国に対する事実上の情報戦争です」とジャジコフは述べた。「こうした批判をする者たちは、イングーシ共和国を訪れて、住民と話をしてみればよいのです。どの村にも電気と水とガスがあります。電話も。イングーシの情勢は安定しており、よく統制されています」
けれども、北コーカサスの専門家であり、モスクワ・ヘルシンキ・グループのアスランベック・アパーエフは、住民たちが目撃しているのは、イングーシを不安定化させようとする、統制された綿密な計画であると言う。
「我々は故意に緊張を高めようとする計画の目撃者なのです。増派部隊の投入も懸案事項です。私が恐れているのは、イングーシが、大規模な『掃討作戦』と誘拐、違法な拘禁、行動の自由に対する制限、他の諸権利に対する侵害が行われているチェチェンの二の舞にならないかということです。イングーシの情勢は極めて懸念すべきものです」