武装勢力の身内の家が焼かれている

(4/15 ラジオスバボーダ アンドレイ・バビツキー)

 人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)モスクワ支部長のタチヤーナ・ロクシナがチェチェンに行き、武装勢力の親族たちの家が放火されている事態について調査してきた。彼女に聞く。

 最近起きている一連の放火は、チェチェン政府(親ロシア派)による政治的懲罰です。当局がそう公表しているわけではありませんが、公然の秘密です。
 なぜこの問題に関わることにしたかと言いますと、一本の電話に端を発しています。最近、数年間アメリカに住んでいるというあるチェチェン人から電話がかかってきました。彼がチェチェンに残してきた家族が迫害され、放火されたようなので、調べてもらえないかというものです。

すぐには調べられませんでしたが、やっとチェチェンに行き、一週間このことだけを徹底的に調査することができました。もちろん政府は、「我々が放火をしている」と公言しているわけではありません。

しかし、こう言っています。「武装勢力がやっていることの責任は、武装勢力の身内に取らせる」と。正確に引用するとこうです。昨年8月にラムザン・カディロフがにテレビ出演し、こう言いました。

 「チェチェンの慣習を活用すべきだ。むかし、こういう連中は人々が村八分にし追い出したものだ。これは当たり前のことだった。武装勢力は村を襲い、警察官を殺し、家を燃やしている。身内の誰かが森にいる(独立派武装勢力に参加している)ような家族は、みな犯罪の共犯者とみなす。彼らもテロリスト、過激派、ワッハーブ、シャイタンだ」と。

 取り締まりから逃れるために、森にいる身内と縁を切ったと宣言する人々もいる。実は、そういう人たちもこっそり森の身内を助けている。チェチェン共和国大統領はこう言っているのです。武装勢力のメンバーが身内にいれば、それだけで犯罪人と見なされると。そして、彼らは身内がしでかしたことを清算しなければならないことになります。縁を切ったとしても、それはまったく救いとはなりません。

家族にとって、どんな解決策があるでしょう? チェチェン当局は、解決策はきわめて簡単だと言います。どんな方法でもいいから、当局に身内を突き出せと言うのです。グローズヌイ市長のフチーエフが、武装勢力に入っている者の身内と会見している様子が、テレビで放映されました。市長は次のように言いました。

「われわれの対話の基盤となるのは法律ではなく、チェチェンの慣習だ。あなた方の身内は地元の住民を襲って、家々に放火している。彼らを小さいときから育てたのはあなた方だ。そのままにしておくわけにはいかない。彼らを見つけ出し、家に戻さなければならない。今後、あなたがたの身内が悪いことをすれば その報いはあなた方がそしてあなた方の子孫が受けるのだ。森に隠れているあなた方の身内がおこなう悪業の報いがみなさんの家に返ってくるのだ。これを実感することになる」

などなど。こうしたアピールは数多く出されています。つまりわたしたちが目にしているのは、受け入れがたい集団制裁なのです。

 こうした会見が行われたあとも、当局に協力的でないと見なされた家族は本当に懲罰を受けることになります。まるでベルトコンベアのように、機械的に放火されるのです。まったく事務的に。武装した内務省関係者が夜中に車数台で乗り付けて来て、その家の人々を外に追い出すか、あるいは(チェチェンでよくある)敷地内のもう一つの家に追い立て、そこに閉じこめる。

 押し入ってきた者たちは、落ち着き払って家具を動かし、燃えやすいものを部屋の中に投げ散らし、ガソリンをそこら中にふりかけて火を放ちます。通常はすぐには立ち去りません。家が燃え始めたことを確認して、跡形もなくするために、30分以上はそこで待っています。彼らが去っていくと その家の住人や近所のひとたちが、延焼を食い止めるために自力で火を消そうとして、時には家の一部を救うこともできます。

家の中が全部燃えてしまっても、屋根や壁が残ることもあるにはありますが、兵隊たちが長く居座るようなことがあれば、消すこともままなりません。隣人たちは外にでることも怖がって家はそのまま焼け落ちる。そんな例は、私たちが数えただけでもチェチェンの様々な地区で20件ほどありました。

シャリ、アルグン、サマシキ、ヴェデノ地区の3つの村、ナウル地区、グローズヌイ市近郊。これはその地区全体に対する見せしめなのです。どこかで家が1、2戸焼かれると、住民は皆、明日は我が身だと思います。人々はこれに対して何も訴えようとしない。

わたしたちは調査の過程で、やっと3件、放火について当局に訴えた例を見つけました。しかし、そのうち2件は訴えが取り下げられていました。たった数週間後に。治安機関から圧力がかかったのです。〈訴えを取り下げないなら、もっとひどい目に遭う〉と、しっかりわからせられた。

その上、この人たちは「家は自然発火した」という文書に署名させられています。「ろうそくがひっくり返り、皆、就寝していたため気づかなかった」とか。

 こうした事件の捜査は警察の管轄ですが、人々が検察官に訴え出ると、検察は警察に書類を回します。こういう事件の捜査は警察が行うべきなのですが、治安機関職員がこうした放火に関わっているのは明らかです。

http://www.svobodanews.ru/content/article/1607433.html