#302 ザカーエフと親ロシア派の「対話」
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* ザカーエフと親ロシア派の「対話」は北コーカサスに平和をもたらすか?
* HRW: 人権活動家ナタリア・エステミロワ氏の暗殺犯の訴追を
* イベント情報
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■ザカーエフと親ロシア派の「対話」は北コーカサスに平和をもたらすか?
チェチェン独立派を西側で代表してきた、アフメド・ザカーエフ首相が、7月に親ロシア派と、ノルウェーのオスロで交渉したことがあきらかになった。
ザカーエフはここしばらく、チェチェン親ロシア派傀儡大統領ラムザン・カディロフを評価する姿勢をとり始めており、ヨーロッパで難民生活を続ける十万人以上のチェチェン人社会の中で波紋を広げている。
はたしてザカーエフが親ロシア派と協力し、チェチェンに帰ると、独立派はこれからどうなるのか? そしてカディロフの目的は? 長年チェチェンをウォッチしてきたリザ・フューラー記者の論考。
(7/26 ラジオ・リバティー/リザ・フューラー)
7月24日に、亡命中のチェチェン独立派政府のリーダーと、親ロシア派チェチェン政府は、チェチェン民族の和解のための協議を開始していると発表した。この動きは、北コーカサス全体で続いている戦闘に終わりを継げるものになるのだろうか?
オスロでの記者会見の場で、アフメド・ザカーエフ(2007年終わりから、イチケリア・チェチェン共和国亡命政府の首相)は、チェチェン親ロシア派政府代表との民族的和解のための「協議」を行っていることを明らかにした。
この会見は、2日間にわたって、ザカーエフと、親ロシア派のラムザン・カディロフに近いドゥクヴァハ・アブドゥラハノフ/チェチェン議会議長との、2日間にわたる会談の後で行われた。
双方がオスロで最初の会合を持ったのはすでに4週間前で、次回、3度目の会合は、2週間後にザカーエフの亡命先のロンドンで開かれることになっている。
ロンドンを拠点に活動している「チェチェン平和フォーラム」のイヴァール・アムンゼンが、双方の仲介者となった。彼はリバティーの取材に対して「きわめて建設的な会談だった。双方とも、チェチェンの政治的安定に向けてリードしていきたいと考えている」と答えた。
アムンゼン氏は、この協議をチェチェン親ロシア派のカディロフ大統領とロシア連邦指導部が後援していることを強調した。同氏によれば「ロシア政府は現実的なアプローチだけが平和につながること、そしてザカーエフ氏がそのための重要な人物だということを理解している」という。
親ロシア派の代表、アブドゥラフマノフ議会議長も、この協議が、プーチン首相・メドヴェージェフ大統領に支持されたものだと明らかにしている。
●ザカーエフの帰国?
ここ1年の間、カディロフ側はザカーエフとのコンタクトを取りつづけていると公言し、ザカーエフがチェチェンに戻った場合には、何らかの公職を与えることを宣言しつづけてきた。6月28日には、ザカーエフに態度を決めるよう、1ヶ月の期限を切った。
ザカーエフは今回のオスロでの記者会見の際「私自身のチェチェンへの帰国や公職ついては話し合っていない。ジャーナリストや評論家の推測にすぎない」と語っている。
ザカーエフは、アスラン・マスハドフ政権(1997−2005)の穏健派の代表者であり、彼自身ロシアを離れるまではチェチェン戦争で戦っていたが、カディロフ側は公式に「戦争犯罪には問わない」と明言している。
今年2月、メドヴェージェフ大統領の国際協力・対テロ戦争分野の特別顧問のアレクサンドル・サフロノフ将軍は、ザカーエフはロシアの法廷において恩赦を施されるだろうと発言している(ロシア政府は、ロンドンに亡命しているザカーエフにテロ活動や誘拐の嫌疑があるとして、イギリス政府に対して繰り返し、引き渡しを要求してきた)。
2005年末、チェチェンの過激派イデオローグ、モフラジ・ウドゥゴフ情報相(独立派)とも激しい論争があった。ウドゥゴフらはチェチェンのみの独立ではなく、イスラム国家としての北コーカサス全体の独立を求めるとともに、抵抗勢力の戦士は国際法などに拘束されないと主張していた。
また、2007年の12月、チェチェン独立派の大統領で抵抗勢力の司令官であるドック・ウマーロフが「北コーカサス首長国」を宣言し、自身がその首長であることを宣言したとき、ザカーエフはこれらの動きに対して「チェチェンのすべての勢力が連合しなければならない」と(事実上批判)していた。
こうしたことを考慮すると、明らかにザカーエフは、抵抗勢力内の「首長国派」との政治闘争のなかでの戦術的な協力者として、カディロフを位置づけている(カディロフはかねて、どんな犠牲を払っても首長国派を排除するとしている)。2月のチェチェンプレスのインタビューでザカーエフは「現在の状況下では、カディロフとの交渉こそが、チェチェンの社会を再統合し、ロシアとの関係を作っていく上での政治的プラットフォームになりうると答えている」
●チェチェンから溢れ出す暴力
アムンゼンは、オスロでの協議は「チェチェン内の〈妥当な〉勢力の間で行われた。ザカーエフは今もチェチェンで尊敬を受けている」と胸を張る。
しかし、双方の声明は希望的観測の強いものであろう。実は、カディロフがザカーエフを帰国させたいのは、ザカーエフにはすでに何の影響力もないことをさらけ出したいからである。
すべてではないにせよ、イングーシやダゲスタン、カバルディノ・バルカリアで戦っている若い抵抗勢力の戦士たちは、イスラム的イデオロギーによって動機付けられている面が強い。チェチェンで戦っている若い世代も、ザカーエフを政治的権威とはみなしていない──彼について詳しく知っていれば、なおのこと。
ここ数週間、メドヴェージェフはイングーシのラシード・ガイサノフ大統領代行が、抵抗勢力に対し、カディロフ*1より柔軟なアプローチを取ろうとしていることを、承認する姿勢を見せていた。7月7日のモスクワでの記者会見で、ガイサノフは「若い戦士たちは、無慈悲に殺すのでなく、説得して武装解除させるべきだ」と語った。前者のやりかたは、カディロフが現在行っている作戦である。
また、メドヴェージェフはダゲスタンのムーフ・アリエフ大統領が指名した新しい内務大臣を承認した。アリエフはこれまで、ムスリム抵抗勢力の若者たちの活動に対して、警察当局が無差別な報復をすることに、疑問を呈してきた。
多くの観測筋が見るところ、こうした残虐なやりかたは逆効果であり、かえって若者たちを抵抗勢力に結集させてしまう。ダゲスタンの新内相は、連邦保安局(FSB)のキャリアではあるが、こうした状況を打開しようとしているようだ。
ザカーエフは、24日のインタビューの中で「暴力が、チェチェンから、北コーカサス全体にひろがっている」という観測を示した上で「両方の勢力が、互いの立場を軍事力で確保しようとするかぎり、終わらない」と答えているが、これはロシア政府と、それに追従する北コーカサスの指導者たちと、北コーカサスの抵抗勢力が対話するべきだという意味にとれる。
彼が、そうした対話において親ロシアの側を代表するつもりがあるかどうかははっきりしない。同じように、ドック・ウマーロフ(独立派大統領)が、どんな条件ならばこうした対話に加わってくるかも不透明だ。最近のインタビューでは、ウマーロフは「モスクワからの和平の申し入れは一切信用しない」と答えている。
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■HRW: 人権活動家ナタリア・エステミロワ氏の暗殺犯の訴追を
ナタリヤ・エステミロワ氏の暗殺事件について、独立した、包括的で透明性の高い捜査を実行するよう、ロシアのメドヴェージェフ大統領に呼びかけてください。次のサイトで、署名ができます。(今のところ英語版のみ)
http://www.kintera.org/JusticeforNatalia
ロシア連邦チェチェン共和国の著名な人権活動家で、ヒューマン・ライツ・ウォッチも緊密に連携して活動してきたナタリヤ・エステミロワ氏は、2009年7月15日、首都グローズヌイの自宅近くで拉致されました。近くのバルコニーにいた人びとが、彼女が悲鳴を上げ、そのまま車で連れ去られてしまった現場を目撃していました。その日遅く、彼女は、隣のイングーシ共和国で、射殺遺体となって発見されたのです。
エステミロワ氏は、ロシアの有力な人権団体メモリアルの調査員として、10年近くの間、人権侵害に関する調査の最前線に立ち続けるとともに、被害者のための法による正義の実現に向けて活動しました。ヒューマン・ライツ・ウォッチも彼女と緊密に連携して調査をしており、最近では、ヒューマン・ライツ・ウォッチとともに、チェチェン当局が、反政府勢力の関係者とみなした人びとを略式処刑にしたり家族の家も焼き討ちにしてしまうという懲罰行為を広く行なっていることについての調査を進めていました。
また、彼女は、人権分野での功績により、ヒューマンライツ・ウォッチの人権賞(2007年)をはじめ、欧州議会からもロバートシューマンメダルを贈られたほか、スウェーデン政府のRight to Survival賞(2004年)など、数多くの賞を受賞しています。また、暗殺されたロシアの著名なジャーナリストであるアンナ・ポリトコフスカヤ氏をたたえて設立されたアンナ・ポリトコフスカヤ賞の最初の受賞者でもあります。
ナタリヤ・エステミロワ氏暗殺の犯人たちの訴追を
http://www.kintera.org/JusticeforNatalia
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■イベント情報
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8/12 御茶ノ水:スリランカ現地報告会(非暴力平和隊)
日本はスリランカへの最大のODA援助国。
現地視察報告を聞きながら、スリランカへの支援のありかた、
本当の平和にむけてのかかわり方について、一緒に考えてみませんか?
http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090809/1249814869
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8/12-15 渋谷: 兵士が証言する戦争
書籍「冬の兵士」出版記念上映会&トークショー
反戦イラク帰還兵の会(IVAW)がワシントンで戦争の証言を行う
集会「冬の兵士」を開き、米軍の即時撤退を訴えた。
岩波書店からの『冬の兵士 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
の出版を記念して。
http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090809/1249781423
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8/14 文京:ヘイトスピーチは許せない!『行動する保守!?』にどう向き合うか
『行動する保守』を自称し、ヘイトスピーチをまき散らす人々。
彼らの言動が、私たちの社会に根ぶかく続いている排外主義の戯画なら、
この動きに正面から向き合うことが今こそ求められている。
排外主義を封じ込めるため、これから何をするべきなのか。
http://livingtogether.blog91.fc2.com/blog-entry-1.html
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8/24-30 銀座:涼風情×二人展
フィリピン・ミンダナオ島の先住民の「ティナラク織り」展覧会。
「夢を織る」。
http://www.gallerys.jp/town/tokyo/rengagarou/now.html
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8/27 文京:相次ぐオピニオン誌の休刊と雑誌『世界』の64年
総合雑誌の休刊が相次いでいる。
岩波書店社長の山口昭男氏をゲストに、雑誌『世界』の64年を振り返り、
総合雑誌の新しい役割について語る。
http://apc.cup.com/apc200908.pdf
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10/3 明治公園:NO NUKES FESTA 2009 -放射能を出さないエネルギーへ-
エネルギー政策の転換に向けて、全国から集まろう!
http://www.nonukesfesta2009.com/
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10/4 大井町:★Bee's Cafe - Vol.1 六ヶ所から見つめる未来-★
六ヶ所村核燃料再処理工場、アクティブ試験開始から3年。
わたしたちに見えたものは何なのか? わたしたちにできることは何なのか?
ミツバチたちのように集まろう!語ろう!「ワールド・カフェ」的交流会
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■映画・連続講座
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『鶴彬 ーこころの軌跡ー』
万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た──
数多くの鋭い反戦川柳を詠んで戦争反対を貫き、
日本が戦争と破局に向かう中、獄中で燃え尽きた鶴彬の生涯。
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『沈黙を破る』
考えるのをやめたとき、僕は怪物になったーー
2002年、イスラエル軍がヨルダン川西岸に侵攻。
その頃、「祖国への裏切り」と非難されながらも、
みずからの加害行為を告白する、若いイスラエル兵士たちがいた。
土井敏邦氏が13年間にわたって撮りつづけたシリーズ第四作。
http://www.cine.co.jp/chinmoku/
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『チェチェンへ アレクサンドラの旅』
孫へのまなざし 平和への祈り ロシアの見たチェチェン
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『ビリン・闘いの村』
パレスチナ暫定自治区、ヨルダン川西岸のビリン村。
若者たちは非暴力の闘いに立ち上がった。
http://www.hamsafilms.com/bilin/
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