ザカーエフと親ロシア派の対話は北コーカサスに平和をもたらすか?


(写真)亡命中の独立派リーダー、アフメド・ザカーエフ(左)は、アブドゥラハノフ/チェチェン議会議長(右:親ロシア派)との対話を行っていることを明らかにした。

(7/26 ラジオ・リバティー/リザ・フューラー記者)


 7月24日に、亡命中のチェチェン独立派政府のリーダーと、親ロシア派チェチェン政府は、チェチェン民族の和解のための協議を開始していると発表した。この動きは、北コーカサス全体で続いている戦闘に終わりを継げるものになるのだろうか?

 オスロでの記者会見の場で、アフメド・ザカーエフ(2007年終わりから、イチケリア・チェチェン共和国亡命政府の首相)は、チェチェン親ロシア派政府代表との民族的和解のための「協議」を行っていることを明らかにした。

 この会見は、2日間にわたって、ザカーエフと、親ロシア派のラムザン・カディロフに近いドゥクヴァハ・アブドゥラハノフ/チェチェン議会議長との、2日間にわたる会談の後で行われた。

 双方がオスロで最初の会合を持ったのはすでに4週間前で、次回、3度目の会合は、2週間後にザカーエフの亡命先のロンドンで開かれることになっている。

 ロンドンを拠点に活動している「チェチェン平和フォーラム」のイヴァール・アムンゼンが、双方の仲介者となった。彼はリバティーの取材に対して「きわめて建設的な会談だった。双方とも、チェチェンの政治的安定に向けてリードしていきたいと考えている」と答えた。

 アムンゼン氏は、この協議をチェチェン親ロシア派のカディロフ大統領とロシア連邦指導部が後援していることを強調した。同氏によれば「ロシア政府は現実的なアプローチだけが平和につながること、そしてザカーエフ氏がそのための重要な人物だということを理解している」という。

 親ロシア派の代表、アブドゥラフマノフ議会議長も、この協議が、プーチン首相・メドヴェージェフ大統領に支持されたものだと明らかにしている。

ザカーエフの帰国?

 ここ1年の間、カディロフ側はザカーエフとのコンタクトを取りつづけていると公言し、ザカーエフがチェチェンに戻った場合には、何らかの公職を与えることを宣言しつづけてきた。6月28日には、ザカーエフに態度を決めるよう、1ヶ月の期限を切った。

 ザカーエフは今回のオスロでの記者会見の際「私自身のチェチェンへの帰国や公職ついては話し合っていない。ジャーナリストや評論家の推測にすぎない」と語っている。

 ザカーエフは、アスランマスハドフ政権(1997−2005)の穏健派の代表者であり、彼自身ロシアを離れるまではチェチェン戦争で戦っていたが、カディロフ側は公式に「戦争犯罪には問わない」と明言している。

 今年2月、メドヴェージェフ大統領の国際協力・対テロ戦争分野の特別顧問のアレクサンドル・サフロノフ将軍は、ザカーエフはロシアの法廷において恩赦を施されるだろうと発言している(ロシア政府は、ロンドンに亡命しているザカーエフにテロ活動や誘拐の嫌疑があるとして、イギリス政府に対して繰り返し、引き渡しを要求してきた)。

 2005年末、チェチェンの過激派イデオローグ、モフラジ・ウドゥゴフ情報相(独立派)とも激しい論争があった。ウドゥゴフらはチェチェンのみの独立ではなく、イスラム国家としての北コーカサス全体の独立を求めるとともに、抵抗勢力の戦士は国際法などに拘束されないと主張していた。

 また、2007年の12月、チェチェン独立派の大統領で抵抗勢力の司令官であるドック・ウマーロフが「北コーカサス首長国」を宣言し、自身がその首長であることを宣言したとき、ザカーエフはこれらの動きに対して「チェチェンのすべての勢力が連合しなければならない」と(事実上批判)していた。
 
 こうしたことを考慮すると、明らかにザカーエフは、抵抗勢力内の「首長国派」との政治闘争のなかでの戦術的な協力者として、カディロフを位置づけている(カディロフはかねて、どんな犠牲を払っても首長国派を排除するとしている)。2月のチェチェンプレスのインタビューでザカーエフは「現在の状況下では、カディロフとの交渉こそが、チェチェンの社会を再統合し、ロシアとの関係を作っていく上での政治的プラットフォームになりうると答えている」

チェチェンから溢れ出す暴力

 アムンゼンは、オスロでの協議は「チェチェン内の〈妥当な〉勢力の間で行われた。ザカーエフは今もチェチェンで尊敬を受けている」と胸を張る。

 しかし、双方の声明は希望的観測の強いものであろう。実は、カディロフがザカーエフを帰国させたいのは、ザカーエフにはすでに何の影響力もないことをさらけ出したいからである。

 すべてではないにせよ、イングーシやダゲスタン、カバルディノ・バルカリアで戦っている若い抵抗勢力の戦士たちは、イスラムイデオロギーによって動機付けられている面が強い。チェチェンで戦っている若い世代も、ザカーエフを政治的権威とはみなしていない──彼について詳しく知っていれば、なおのこと。
 
 ここ数週間、メドヴェージェフはイングーシのラシード・ガイサノフ大統領代行が、抵抗勢力に対し、カディロフ*1より柔軟なアプローチを取ろうとしていることを、承認する姿勢を見せていた。7月7日のモスクワでの記者会見で、ガイサノフは「若い戦士たちは、無慈悲に殺すのでなく、説得して武装解除させるべきだ」と語った。前者のやりかたは、カディロフが現在行っている作戦である。

 また、メドヴェージェフはダゲスタンのムーフ・アリエフ大統領が指名した新しい内務大臣を承認した。アリエフはこれまで、ムスリム抵抗勢力の若者たちの活動に対して、警察当局が無差別な報復をすることに、疑問を呈してきた。

 多くの観測筋が見るところ、こうした残虐なやりかたは逆効果であり、かえって若者たちを抵抗勢力に結集させてしまう。ダゲスタンの新内相は、連邦保安局(FSB)のキャリアではあるが、こうした状況を打開しようとしているようだ。

 ザカーエフは、24日のインタビューの中で「暴力が、チェチェンから、北コーカサス全体にひろがっている」という観測を示した上で「両方の勢力が、互いの立場を軍事力で確保しようとするかぎり、終わらない」と答えているが、これはロシア政府と、それに追従する北コーカサスの指導者たちと、北コーカサス抵抗勢力が対話するべきだという意味にとれる。

 彼が、そうした対話において親ロシアの側を代表するつもりがあるかどうかははっきりしない。同じように、ドック・ウマーロフ(独立派大統領)が、どんな条件ならばこうした対話に加わってくるかも不透明だ。最近のインタビューでは、ウマーロフは「モスクワからの和平の申し入れは一切信用しない」と答えている。

http://www.rferl.org/content/Can_Chechen_Talks_Bring_Peace_To_North_Caucasus/1785210.html

*1:イングーシでの治安作戦も行うようになっている