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INDEX

 * 映画『スリングショット・ヒップホップ』のこと、ガザのこと、佐藤レオさんのこと
 * イベント情報

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映画『スリングショット・ヒップホップ』のこと、ガザのこと、佐藤レオさんのこと(大富亮)


 大晦日、今年最後のチェチェンニュースです。
 しかしなぜか、パレスチナのことを書きたくなってしまい・・・。

映画のこと


 12月に、渋谷のアップリンクで開かれた、『スリングショット・ヒップホップ』という映画の上映会に行ってきた。ガザ、ヨルダン川西岸、イスラエル領内のパレスチナ人の若者たちが、ヒップホップに触発され、彼ら独自の歌を歌う様子を活写したフィルムだ。


予告編: http://www.slingshothiphop.com/trailer/

 構成はかなり巧みだが、ビデオカメラで、たぶん監督ひとりで撮影したと思われ、映像はノイジーな感じ。だが、それが逆に、占領されているパレスチナの緊迫した雰囲気を伝えている。この映画は、とにかく明るく、強い。

 別々の場所でラップに目覚めて、いつか風聞で互いを知り合うようになった彼らは、あるとき西岸で揃ってイベントを開く手はずを整え、大勢の熱狂的な観客たちが集まるが、イスラエル軍の封鎖によって、いくつかのバンドが参加できなくなってしまう。その経過を私たちが追体験していると、どうしても占領の不当性を思わずにいられない。歩いても行けるわずかな距離が、検問所に遮られている。

佐藤レオさんのこと


 ガザ攻撃開始から1年がたった。

 事情にうとい私のようなものからすれば、ガザ攻撃は突然、降ってわいたようだった。それは、チェチェンで言えばサマーシキ村の包囲と攻撃のようなものだったし、人口で言えば、ロシアによるチェチェンへの軍事侵攻全体と同じような規模の、同じように残虐な作戦だったと思う。

 話は少し変わるのだが、9月の中旬、佐藤レオさんという人が亡くなった。若手の映像作家で、『ビリン・闘いの村』を制作し、DVDを売っていた。ここには、西岸のビリン村の人々の、創意にあふれる、非暴力抵抗活動が描かれていた。一度、ある打ち上げで会って、話をしたことがある。穏やかな人柄の人だった。そして深く知ることがないままに、夭逝されてしまった。

 非暴力の抵抗を続けるビリン村でも、村人の逮捕が相次いでいる。

http://hamsafilms.com/bilin/index.html

 『スリングショット・ヒップホップ』では、「俺たちの音楽は、30%がアメリカのラップからきていて、30%がパレスチナの詩人からきていて、あとの40%は──あそこからくるのさ」と、ラッパーが窓の外を指して言う。現実に彼らをとりまく状況が、彼らに音楽を選ばせたのだった。ラップにしても、ビデオにしても、特別に深い知識を持った人が始めたわけではない。

 苦しんでいるときに、人は言葉を語ることそのものをやめることがある。わからないことがあったとき、考えるのをやめたくなることもある。アカデミックに学問や芸術をかじったことのある人なら、何かを人に伝えたいという願いと同時に、それを諦める誘惑もある。語らなければ恥をかくことはないし、行動しなければ失敗もないのだから。

 音楽と言葉に託して、叫ぶパレスチナの人々を見て、「語ってもいいんだ!」と思った。つたなくても、練習場所がなくても、地位がなくても。映画館には、怒りと、仲間を求める切ない心と、声を上げる勇気が伝わってきたと思う。この映画が私たちをひきつけるのは、なにより歌が、どこまでも力強いことだ。ぜひまた上映してほしい。

ホロコーストからガザへ』のこと


 そんなパレスチナ、なかでもガザの状況を私たちが理解するのは、むずかしい。新聞では、だいたいパレスチナ側が攻撃を仕掛けるから、イスラエルとしてもやむをえず武力行使をするのだと説明されるし、パレスチナ問題をめぐる年表さえ、最近では紙面には載らなくなった。

 最近、『ホロコーストからガザへ』(サラ・ロイ著、青土社)という本を手にした。この本は、経済学者で、ナチスによるホロコースト・サバイバーの子である著者が、ガザ地区を経済的に分析することで、封鎖の正確な実態と、各国政府からの支援が、いかにパレスチナの「反開発」──つまり前より悪くすることに役に立っているかを明らかにしようとしている。


http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/blog/2009/11/post-299/

 刺激的なタイトルだ。ロイの生い立ちだけではない。ガザ攻撃は「突然、降ってわいた」ものではなく、何年も前から準備され、封鎖が強められ、ゲットー化していく中で行われた。パレスチナ側が、そもそも住んでいた土地を取り返すために使う、粗末な爆弾やロケット。そして、応酬に使われる戦車や、無人攻撃機や、アメリカ製の爆撃機

 これらはある時のチェチェンの苦しみとよく似ている。今、チェチェンへの弾圧は形を変えてきているが、ただ、そこに住んでいただけで、人々の土地が封鎖され、武力で攻撃され、ありとあらゆる虐待を受けてきたことは同じだ。日本政府も、それを知りながらロシアに、多額の支援金を手渡してきたのだった。

 
 今年も、多くの人々に助けていただき、チェチェンニュースを発行することができました。内容の面では、こうして寄り道をしていますが、やはりチェチェンへの支援は、チェチェン連絡会議、チェチェンニュースなどから発信しなければならないので、時間をかけてでも新しい文化を生み出していきたいと思います。今後とも、どうぞご意見や、ご要望をお寄せください。


 佐藤レオさんのご冥福を、心からお祈りします。 


 下記の共同声明に、ご賛同いただければ幸いです。

 『ガザ虐殺を繰り返させないための共同声明』賛同者募集 :
 http://d.hatena.ne.jp/gazapetition/ 




『スリングショット・ヒップホップ』:
http://www.japan-middleeast.jp/kako_chuto-cafe/2009TalkSession.html



『ビリン・闘いの村』公式サイト
http://hamsafilms.com/bilin/index.html

生前の佐藤レオさんの書いた文章:


「 私とパレスチナ、そしてイスラエルとの関わりは2004年に遡ります。当時、長期旅行中だった私は、ヨーロッパ各地を転々とし、トルコ・シリア・レバノンを経て、聖地エルサレムへと向かいました。

 まず、イスラエル入国で待っていたのは過剰なセキュリティでした。レバノンやシリアのビザを持っていた私は半日ほど待たされ、ようやくイスラエルに入国できました。

 たまたま泊まった安宿には、普通の旅行者だけでなく、ジャーナリストや活動家がたむろしていました。そのなかに、八木健次さんという写真家がいて、ちょうど分離壁に関するドキュメンタリーを作っているのだと聞きました。

 私自身、日本を旅立つ前にビデオ編集を仕事としていましたので、そのプロジェクトに興味を持ち、同行取材するようになりました。そこで目にしたのが、美しい旧市街とは対照的な、パレスチナイスラエルを分断する壁やチェックポイントでした。

 それまで40以上の国を見てきましたが、ここまでの紛争を目の当たりにすることはなく、少なからず衝撃を受けました。

 アザウィア村の壁建設反対デモの取材では、初めて催涙ガスを経験しました。
パレスチナ人に混じって兵士たちに涙ながらに抗議するアメリカ人女性に心を動かされました。

 また、ヘブロンの元兵士たちが主催した写真展「ブレイキング ザ サイレンス」も取材し、元イスラエル兵士の中にも自分たちの行いに疑問を投げかけている人々がいるのだな、ということを知りました。

 そうして私は、このプロジェクト「THE WALL」の編集・助監督をすることに決め、日本に帰りました。それが2004年7月のことです。

 「THE WALL」が数ヶ月をかけて完成し、小規模ながら上映を何度か手伝ったりもし、そして一年以上が経ち、今度は自分で何か出来ないかとカメラを買って、2006年の5月から6月にかけて、パレスチナに再訪問しました。

 現地の人々の協力と、半年ほどの翻訳と編集を経て出来たのがこの作品「ビリン・闘いの村」−パレスチナの非暴力抵抗−です。

 彼らの非暴力の闘いはすでに3年以上続いており、2007年9月には村の分離フェンスのルートを変更するようにとのイスラエル最高裁の判決がありましたが、それが本当に実行されるのかどうかはまた別の問題だと聞いています。
 
 イスラエル政府は、国際社会が決めたグリーンラインを無視し、パレスチナに与えられたはずの西岸の土地に120以上の入植地を建設し、主な入植地を分離壁・フェンスでさらに囲み、チェックポイントを設けてパレスチナ人たちの行動を制限しています。この政策は、国際司法裁判所から停止勧告を受けています。そういった見えにくい土地収奪、水資源の確保などが民族浄化の一手段として継続的に行われており、そういった日常が、パレスチナ人の困難をさらに難しいものとしているということを、この映像を通して広く理解されるきっかけになればと思います。」


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イベント情報

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★ 1/9 早稲田:wam de art「絵画にみる『慰安婦』像」

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20091219/1261215126

  絵画で「慰安婦」はどのように描かれてきたのか?
  古沢岩美ほか、戦後の男性洋画家が描いた「慰安婦」から読み取る。
  北原恵(表象文化論、美術史、ジェンダー論)さんが語る。


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★ 1/10 千歳烏山:「忘れないで!パレスチナ」映画とお話の会

http://d.hatena.ne.jp/aresan/20091203/1259848339

  1年前、ガザで起きたことをあらためて記憶に刻むとともに、
  私たちがほんとうに記憶すべき問題の根源について共に考える。
  映画:「シャティーラキャンプの子ども達」の上映も。


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★ 1/28 高田馬場:なぜいま『坂の上の雲』なのか 司馬史観をどう見るか

http://apc.cup.com/

  『坂の上の雲』の放映がNHKで始まった。
  来年は韓国併合から100年目に当たる。
  司馬史観の問題点を通して、『坂の上の雲』を徹底検証する。


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★ 1/29 大阪:アフガン女性の現状と闘い─マラライ・ジョヤとRAWA─

http://rawa-japan.3005.net/


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★ 1/31 青山:高岩仁監督作品上映会「資本主義は戦争を必要としている」

http://d.hatena.ne.jp/aresan/20091115

  2008年1月に亡くなった高岩仁監督。
  『「日の丸」と「君が代」』、 『教えられなかった戦争・フィリピン編』の
  上映と、石田甚太郎さんによる講演。


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★ 2/13 水道橋:主権者は私たち
      〜日米安保50年、憲法9条・25条、改憲手続き法を考える

http://www.annie.ne.jp/~kenpou/index.html


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■映画・連続講座

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★ 『南京・引き裂かれた記憶』

http://nanking-hikisakaretakioku.com/

間違いなく、あったことなんです──
  7人の被害者の証言と、6人の元日本兵の証言から浮かび上がる、
  「南京大虐殺」の記憶。


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★ 『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』

http://www.uplink.co.jp/bluegold/

  世界の人口増加により、水資源は不足しはじめている。
  石油戦争から、水戦争の時代へ──
  あなたは、ペットボトルの水を飲みますか?


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★ wam de video 2010 兵士が加害を語るとき
    〜日本・アメリカ・イスラエルからの証言

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20091219/1261215475

  中国を侵略した元日本軍兵士、イラクから帰還したアメリカ兵、
  パレスチナ占領の実態を語るイスラエル兵が語る加害行為。
  彼らはなぜ、語り始めたのか──


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★ 連続講座:ジャーナリスト実践養成講座

http://apc.cup.com/

  マスメディア業界を目指している方、フリーで取材する方、
  ブロガーなど記事文章の上達を目指している方にお薦めの実践養成講座。
  「ジャーナリストのための実践英語入門講座」など幅広く。

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★『鶴彬 ーこころの軌跡ー』

http://tsuruakira.jp/

万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た──
数多くの鋭い反戦川柳を詠んで戦争反対を貫き、獄中に果てた鶴彬の生涯。

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★『沈黙を破る』

http://www.cine.co.jp/chinmoku/

考えるのをやめたとき、僕は怪物になったーー
「祖国への裏切り」と非難されながらも加害行為を告白する、
若いイスラエル兵士たちがいた。

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★『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

http://www.chechen.jp/

孫へのまなざし 平和への祈り ロシアの見たチェチェン

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★『ビリン・闘いの村』

http://www.hamsafilms.com/bilin/

  パレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸のビリン村。
  若者たちは非暴力の闘いに立ち上がった。

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