#324 モスクワ通信─マルケロフ事件1年の日に

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INDEX

 * 「2地点間の静かな移動」──マルケーロフ/バブーロワ追悼行動の告知
 * バブーロワの両親へのインタビュー:
    『娘を殺したのが誰にせよ、これはロシアで起こったことだ』

 * イベント情報



 一年前の1月19日、モスクワの街の中心部で、弁護士のスタニスラフ・マルケーロフと、ジャーナリストのアナスタシア・バブーロワが、殺害されました。チェチェンで強姦絞殺された少女エリザ・クンガーエワの弁護士と、ノーヴァヤ・ガゼータの記者でした。容疑者が逮捕され、裁判が開始されたようですが、事件はいまだに解決していません。

 今回のニュースでは、19日に予定されたモスクワでのピケの告知と、アナスターシアさんの両親へのインタビューをお送りします。急いで翻訳してくださったTKさんに感謝します。

 日本からの声明: http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090123/1232684738

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■「2地点間の静かな移動」──マルケーロフ/バブーロワ追悼行動の告知

 1月19日、ノーヴァヤ・ガゼータより。

 ファシズムに反対する独立組織「1月19日委員会」は、上記二人の追悼アクションとしてピケを張る。「人権擁護」全ロシア組織執行委員長のレフ・ポノマリョフが知らせてきた。

 最初のピケは19時より、ぺトロフスキー・ブリバールD4、二度めはグリボエドフ記念像のところで20時半から。最初の所から次の所へ<静かに移動する>。このことはモスクワ市当局の了承あり。

 当初は大規模なデモを計画したが市当局はこれを許可せず、理由は申請を出すのが「早すぎる」ということだった。木曜日にこれについての記者会見がプレスセンターで行われた。「スタニスラフ・マルケーロフの殺害から一年。テロは続いている」という集会だった。この会にヘルシンキ・グループの アレクセーエワ、 「人権擁護」全ロシア組織のレフ・ポノマリョフ、そして、1月19日委員会の参加者が出席。

 「われわれはこのアクションについての申請を12月24日に出した。当局は早すぎるから1月4日も再度来るようにと言った。規定では役所は3日以内に返事を出さねばならないはずだったが、なんの返事もなかった。われわれが問い合わせをしても返答は<準備中>ということで、不許可の通知は12日になってから受け取った」とポノマリョフ氏。

 この交渉には、ウラジーミル・ルキンとアレクサンドル・ムジカンツキーというロシア、およびモスクワの人権委員が援助したが効果はなく、当局はルシコフ市長が不在のため結論は出せないと答えた。このため、デモ行進ではなく、二地点でピケを張り、間を移動することになったのである。

 「ファシストに反対する団体や人権擁護団体の集会やデモは、常に問題視される。政府寄りの『若き親衛隊』やファシストのグループが憲法に抵触するようなスローガンをどなりちらしても行く手をはばむ者はいない。われわれは1月19日の行動を毎年の恒例のことにしたい。スタース(マルケーロフの愛称)やナースチャ(同、バブーロワ)を知らなかった人々も、どんなに恐ろしい問題があるかを覚えていてくれるように」―とアレクセーエワは述べた。

 1月19日委員会の発表では、このアクションではいかなる政治的なシンボルを使うことも保留される。この行動を支持しているのはボリス・ストルガツキーアンドレイ・マカレヴィチ、アンドレイ・ロシャク、アレクサンドル・ミッタ、リノル・ゴラリク、アレクサンドル・ロヂオノフ他である。

http://www.novayagazeta.ru/news/745746.html


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■バブーロワの両親へのインタビュー

『娘を殺したのが誰にせよ、これはロシアで起こったことだ』

 1月18日 ワレリー・バラーヤン/ラジオ・リバティー


 スタニスラフ・マルケーロフ弁護士とアナスターシア・バブーロワ記者の殺害から1年となる。ラジオ・リバティは、アナスタシアの両親にインタビューをした。二人はアナスタシアのことを思い、この一年で二人がロシアの政治、社会をどうみるようになったかを語った。ナースチャの死の責任者は誰なのだろうか?

 私(記者)はご両親と会うのはほぼ一年ぶりで、ナースチャ(アナスターシア)の葬儀以来だ。葬儀の時、私はロシアでおきている状況について参列者に説明しようと試みた。しかし、セヴァストーポリ市民は独特の人たちだし、ロシアに対しては特別な関係がある。それで、わたしの説明は通じず、お母さんラリーサがその場をとりなして、ナースチャの殺害はまったく政治的な物ではなく、いろいろが状況が重なった不幸にすぎないと皆に請け合った。

バラーヤン記者(以下「記者」): ラリーサさん、あの葬儀の時、みなとても辛い思いをしましたが、今はこのいきさつについて、別のトーンで書いておられますね。

ラリーサ: はい。私はあのことを、幾度となく思い起こしました。娘が何をしていたのか、全然知らなかったのです。それであんな反応だったのです。もちろんわたしたちは、みなさんのご配慮に感激しましたが、でもナースチャをすこし買いかぶっているんじゃないかしら、と思っていました。あの子はしていることを何も教えてくれませんでしたから。

 「イズヴェスチヤ」に載ったあの子の記事は読んでいました。「ノーヴァヤ」には既に書いていましたけれど、インターネットでユーリー・ブダーノフ(チェチェンで少女を強姦絞殺したロシア軍大佐。大佐の釈放が決まった日、抗議の記者会見を開いた直後にバブーロワは殺された)についての記事を見つけても、わたしは何にも分かっていませんでした。どうしてブダーノフだのエリザ・クンガーエワなんかでてくるの?という調子でした。

記者: あの話を全然知らなかったんですね?

 ナースチャの記事を読んで、わたしは良い記事だと思いました。娘にも、よく書けていて、難しい問題が解明されていると書いてやりました。

記者: あのころロシアの現実をラリーサさんはあまりよく分かっておられないと感じていました。いただいた手紙を読んで、ラリーサさんは目を開かれたように感じました。

 そうなんです。11月30日にノーヴァヤ・ガゼータに手紙を書きましたが、半分に削られています。わたしはそこにファシストに反対する者たちが殺害されたひとつひとつ全部を書いたのです、具体的にこれは 残虐な殺人だと。

記者: 全部あなたが?

 もちろん私たちが書いたんです。私たちが書いた手紙です。

記者: 手紙には文字通り「ロシアにはファシズムイデオロギーが存在しているということを公式に認めるべきだ」と言われていますね。

 わたしの言葉です。ロシアにはファシズムがあると公式に認めろと。もちろん、犯罪者は正義に乗っ取って裁かれるべきです。こんなにたくさんのひとたちが殺されているのに、それが罰せられないなんてあってはなりません。わたしたちは書いたんです、どれだけ殺せば済むのか? いつまでこの調子で続けるのか? ロシアの立法機関はなぜ犯罪者に対してこんなに寛容なのか?と。

記者: 裁判が始まったら モスクワにいらっしゃいますか? 殺人者の目を
見たいですか?

 とても大変だと思いますが、おそらく行くでしょう。私たちは文書を読まなければならないので 行かないわけにいきません。というのも、捜査当局は全然そういう文書を見せてくれていないので。少なくともまだ犯人は捕まっていませんでした。その後捕まって、わたしたちは呼ばれたのですが、その時は行かれませんでした。

記者: あの殺人の標的だったマルケーロフをどう思っていますか?

 ナースチャもスタース(マルケーロフ)もとても才能のある人たちで、ロシアのファシズムなどという恥ずべき現象をなくすように、全力を傾けていました。娘もマルケーロフさんも、最後まで誠実でした。

記者: お父さんの、状況への見方は変わりましたか?

エドワルド: 娘が殺されるまで、ロシアで何か起きてしまっているのか全然知りませんでした。殺されてから具体的に知るようになり、ファシズムがあまりにはびこってしまったことに愕然とした。このプロセスはもうコントロールが効かない状況になっていて、当局も手を出せない。

 ナチズム、ファシズムの思想は下から上まで根付いてしまっています。ロシアの国家機関の下から上まで、下院も含めて、いたる所に。

ラリーサ: 治安機関も代議制の機関でも。こういうことを大統領も首相も公式に認めようとしないのにはあきれます。警察もそうだし。かれらは、これがどんな脅威なのかを知っていた。

 ナースチャは殺される直前の1月13日に手紙をくれたけど、恐ろしい物でした。わたしたちに別れを告げているの? というような。その次に来た手紙は、前の手紙を気まずく思っているようなものでした。おそらくあの子たちはひどく脅されたんです。でも、なにもおきませんでした。

 わたしたちは二つめの手紙を読んだけれど何も理解できないでいた。そして19日のあの事件で、殺されたんです。

エドワルド: 13日の手紙はとても短い物でした。「同志ご両親様、そちらはいかがですか? わたしを愛していてください、お願いします」 手紙は2文字ずつあけた書き方で、あの子はそんな書き方をしたことはありません。文字通り3行、それだけです。

記者: 昨年の1月のスタースとナースチャの周りの状況に不穏な兆しは感じていましたか?

ラリーサ: ナースチャは電話番号を変えなければならなかった。2008年の12月に。それでわたしたちは新年のお祝いの電話が掛けられなかった。変だと思ってメールを書いたら、返事に番号を変えたとあった。脅されていたんです。
 
 もちろんロシア政府を責めるのは難しい。状況はおそらくコントロールできなくなっている。というのもファシストは増えすぎてしまっている、ファシストの団体は141もあり、50万人もいる。 

記者: そういう連中は何らかの形でクレムリンの支援を受けている?

ラリーサ: おそらくそうでしょう。ロシアは世界で存在感を示さなければならないけれど、人間が殺されていいわけではありません。

 たとえば ホームレスの人たちに給食をとどけた子どもが帰ってくる。料理は菜食で、子どもが自分で作って届けた、ところが帰り道で7人組がナイフをもって襲う。まったく、無防備の学生を。この7人組は長期の拘留となったとか。

 でもわたしたちの感覚からすれば短すぎる。ただ、マルケーロフさんのような人が居なければ、それさえなかっただろう、あの人はこういうことにブレーキを掛けようとしていた。それに国際社会にロシアに対策をとらせたということもある。

 捜査委員会の仕事は大変だろうと察している。ともかくこれは裁判になり、そこで審査される。とてもたくさんの邪魔が入るだろうけれど、犯罪者を本当に正義にもとづいて裁けば、ロシアも汚点を返上できるはず。

記者: ナースチャやスタースのように、ロシアでしつこく、違法にも頭をもたげてきているネオファシストに対して果敢に抵抗している若者たちに何か伝えたいことはありませんか。

ラリーサ: ファシストに抵抗しているアンチファ(antifasizm)のひとたちには、もっと自分の身を大事にするように言いたいです。燃え上がってはだめ。抵抗はしなければならないけど、支持がないんだから。自分の命を大事にしなければ。イワン・フートルスキーだって殺されたのだから。(昨年11月、自宅の入り口で殺害された『アンティーファ』のリーダー。26歳だった)

T.K訳
http://www.svobodanews.ru/content/article/1932448.html

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■イベント情報

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★ 1/28 高田馬場:なぜいま『坂の上の雲』なのか 司馬史観をどう見るか

http://apc.cup.com/

  『坂の上の雲』の放映がNHKで始まった。
  来年は韓国併合から100年目に当たる。
  司馬史観の問題点を通して、『坂の上の雲』を徹底検証する。


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★ 1/29 大阪:アフガン女性の現状と闘い─マラライ・ジョヤとRAWA─

http://rawa-japan.3005.net/


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★ 1/31 青山:高岩仁監督作品上映会「資本主義は戦争を必要としている」

http://d.hatena.ne.jp/aresan/20091115

  2008年1月に亡くなった高岩仁監督。
  『「日の丸」と「君が代」』、 『教えられなかった戦争・フィリピン編』の
  上映と、石田甚太郎さんによる講演。


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★ 2/6-16 吉祥寺:燐光群公演『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』

http://www.alles.or.jp/~rinkogun/Toppage.html

  「私、真実なんて、少しも怖くありませんわ」
  ベルリンの壁が崩れた後、秘密警察の監視をかいくぐって
  経営されていた、ワイマール時代からのキャバレーが見つかった。
  東ベルリン・アンダーグラウンドの生き証人マールスドルフとの、
  官能に満ちたスリリングな邂逅!


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★ 2/13 水道橋:主権者は私たち
      〜日米安保50年、憲法9条・25条、改憲手続き法を考える

http://www.annie.ne.jp/~kenpou/index.html


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■映画・連続講座

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★ 『南京・引き裂かれた記憶』

http://nanking-hikisakaretakioku.com/

間違いなく、あったことなんです──
  7人の被害者の証言と、6人の元日本兵の証言から浮かび上がる、
  「南京大虐殺」の記憶。


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★ 『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』

http://www.uplink.co.jp/bluegold/

  世界の人口増加により、水資源は不足しはじめている。
  石油戦争から、水戦争の時代へ──
  あなたは、ペットボトルの水を飲みますか?


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★ wam de video 2010 兵士が加害を語るとき
    〜日本・アメリカ・イスラエルからの証言

http://d.hatena.ne.jp/chechen/20091219/1261215475

  中国を侵略した元日本軍兵士、イラクから帰還したアメリカ兵、
  パレスチナ占領の実態を語るイスラエル兵が語る加害行為。
  彼らはなぜ、語り始めたのか──


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★ 連続講座:ジャーナリスト実践養成講座

http://apc.cup.com/

  マスメディア業界を目指している方、フリーで取材する方、
  ブロガーなど記事文章の上達を目指している方にお薦めの実践養成講座。
  「ジャーナリストのための実践英語入門講座」など幅広く。

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★『鶴彬 ーこころの軌跡ー』

http://tsuruakira.jp/

万歳とあげて行った手を大陸へおいて来た──
数多くの鋭い反戦川柳を詠んで戦争反対を貫き、獄中に果てた鶴彬の生涯。

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★『沈黙を破る』

http://www.cine.co.jp/chinmoku/

考えるのをやめたとき、僕は怪物になったーー
「祖国への裏切り」と非難されながらも加害行為を告白する、
若いイスラエル兵士たちがいた。

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★『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

http://www.chechen.jp/

孫へのまなざし 平和への祈り ロシアの見たチェチェン

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★『ビリン・闘いの村』

http://www.hamsafilms.com/bilin/

  パレスチナ暫定自治区ヨルダン川西岸のビリン村。
  若者たちは非暴力の闘いに立ち上がった。

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  発行部数:1426部 発行人:大富亮
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