#387 ロシア大統領選、投票率100%の嘘

                  
≪7年前の今日、民主的に選出されたチェチェンの大統領、マスハードフが、ロシア特殊部隊に殺害されました≫

 関連情報: http://chechennews.org/chn/0508.htm

 1997年2月、初のチェチェン共和国大統領/議会選挙が行われ、第一次戦争中に参謀を務めたマスハードフが64%を得票して大統領に当選した。選挙監視にあたった欧州安全保障機構(OSCE)、市民平和基金は、民主的に選挙が行われたことを認証した。

 民主的に行われた選挙なら、64%でも、立派なものだ。

 さて、ロシア大統領選は終わり、プーチンが大統領に選出された。たまたま、こちらも64%の得票だったようだが、今度はOSCEが疑問を表明している。

 「大統領選、プーチン氏に有利に行われた=国際選挙監視機関」
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTJE82400120120305

 気になるチェチェン投票率は99.61%。うち、プーチン大統領の得票率は99.76%だったそうだ。毎日新聞チェチェンでの投票率にも触れているが、何も疑問を差し挟まない無難な論調。

http://mainichi.jp/select/world/news/20120306ddm007030077000c.html

 言い換えると、こういうことだろうか。「チェチェン共和国で、りんごがひとりでに地面から飛び上がって枝にくっついて、人々を驚かせた。プーチン氏に忠誠を誓う首長の影響力を反映したようだ」

 こんなことは、新聞では書かないのが普通だ。

 どんな国でも、民主的な投票が行われる限り、一人の候補が99%も票を獲得することはありえない。そういう報道があったら、それだけで「不正の疑いがある」と書くに値するはずである。これまでのチェチェン紛争の経緯を少しでも知っていたら、なおさらそうだ。

 さらに、この上を行く話がある。チェチェンの大統領カディロフ(親ロシアの傀儡)のこれまでの言動によると、彼は百分率がわからない。「プーチンさんの得票率は100%どころじゃない、150%にだってなるはずだ」と、真顔で言うらしい。

 ニューヨークタイムズは、ある選挙区で投票率が107%にのぼったと報じた。以下はその訳。

 若い人がよく言う「ありえない」という言葉は最初なじめなかったが、考えてみれば私たちのまわりにはそんな事実があふれていて、いまごろ口をついて出てくるようになってしまった。トシなのか。

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プーチンへの投票、住民の数を上回る チェチェン

ニューヨークタイムズ、3月5日)

 昨日行われたロシア大統領選挙では複数の不正が指摘されていが、当局側は事前に国内の各地に、票の水増しなどの明らかな不正がないように広報に努めてきた。しかしグローズヌイなどには、そういったメモが届いていなかったらしい。

 チェチェンの第451選挙区では、現地の選挙管理委員たちが、投票用紙の山をカウントしているところだった。「プーチンプーチンプーチン」と、つぶやきながら。「よし、これもプーチンだ」と。

 ウラジーミル・プーチンは、チェチェンで高い得票を得た。1999年に、彼が事実上、戦争を仕掛けたと言ってもいいこの土地で、人々はロシア治安部隊によって痛ましい人権侵害を受けてきた。第451選挙区でのプーチンの得票は1482票。共産党のジュガーノフは1票だった。

 この投票結果だけでも、統計的にありえない。しかし、開票作業のために選管に召集された教師たちは、もっと説明に苦しむことになった。この選挙区には1389人の有権者しかいないため、このままでは投票率は107%になってしまう。

 「あれ、ここにも集計していない票があるよ」と、地区の選挙管理委員長のミラーナ・アトラノーワが指摘すると、混乱がいっそう増してきた。

 ロシアの選挙を分析する有識者は、北コーカサス地域における不正選挙は、他に類をみない図々しさがあると指摘する。権力のトップからのプレッシャー、文化的事情、チェチェンの場合は、さらに警察による脅迫が横行している。

 西側の目からは言語道断に見える不正も、ここでは許容され、法廷に持ち込まれることもない。また、独立した選挙監視員も、安全上の理由から、チェチェンに来ることはまずない。

 ここで目にしたひどい不正も、全国での結果に大きな影響を及ぼすわけではない。北コーカサスの投票者数は、ロシア全国のうち、6%でしかないからだ。とはいえ、このような非民主的なやり方がロシア全土で許容され、とくに、西側から来た監視員の目の届かないところで行われているのが現状だ。

 開票後、チェチェン当局は投票率が99.52%だった発表し、そのうち99.82%がプーチンの得票だと発表した。ジュガーノフは0.04%だった。こういったタイプの違反行為は、反プーチンに怒り狂う街頭抗議の材料に、いくらかは役に立つだろうか。

 チェチェンの首都グローズヌイに隣接するこの選挙区では、ガス会社のチェチェンギオンガズのマークをつけた数十台のミニバスが走り回り、投票者を送迎し──その上明らかに──投票所から投票所へと渡り歩いていた。

 明らかに何か所かの投票所を回っているように見えた女性に私が尋ねたところ、ためらいなく「私たちは投票に来ているのよ」とだけ答えた。

 看護婦のマリエータ・ベシローヴァは、山から吹き降ろしてくる冷たい霧の中に耐えるために、フェルトのコートに身を包んで、同僚たちとともに、投票所の前で救急車から降りた。記者の問いには「私たちのラムザンのために、投票する必要があるなら、私たちはそうする」と答えた。ラムザン・カディロフはこの地域の指導者だ。「もちろんみんな心からそうしたい」と、とくに熱意もなさそうに付け加えた。

 この病院関係者と一緒に移動していたある女性は、人垣の出来ている投票所の入り口から少し離れたところに来たところで記者に語った。やむをえないのだと。「ラムザンなんか好きじゃない。でも、ここに無理やり連れてこられている」と。

 チェチェン選管のイスマイル・バイハーノフ委員長は、インタビューの中で、選挙で違法な方法が使われているという事実はないと否定した。12月の下院選挙の際も、投票率は99.5%、うち与党・統一ロシアの得票率は99.4%にのぼったが、裁判所への異議申し立てはなかったというのが、彼の根拠だ。「われわれは、他の地域よりよりずっとましだと理解している」と語った。

 55歳の女性、デヤシ・ダウトメザエーヴァは、この選挙について心配そうな、控えめな意見を語った。この土地での選挙話では典型的な内容でもある。彼女はロシアの治安機関が、息子に暴力を加え、強制失踪させたことに憤っている。しかし投票はプーチンにするつもりだという。

 「ほかに息子の問題を解決してくれる人がいるのか、想像もつかない」と彼女は言う。「プーチンは(第二次チェチェン紛争に)最初から関わってる。誰が私たちの子どもを見つけられる?プーチンよりいい人がいるなら、教えてくれる?」

 第451投票所では、アトラノーワ委員長のアシスタントが、雑紙に選挙結果を記入していた。地区事務所に送る正式の書類ではなく。

 重複集計かな、とアトラノーワは言った。不在者投票の分が、彼女が最初に持っていたリストに含まれていないと言うのだ。

 そこに選挙の顧問となっている地区委員会のダウダーエフ氏がやってきて、余分な票は「一時的に選挙区に住んでいる人が入れたんだろう」という考えを述べた。その考えにしても、根拠になる書類はない。

 最終的にアトラノーワは、票の数え間違いだったと決め──開票作業には監視人がついていて、その時点では何も問題はみつかっていなかったのだが。ついに彼女は正式の書類に〈プーチン、1,389票〉と書き込んだ。彼女の担当する地区の有権者数そのままに。そしてどういうわけか、〈ジュガーノフ、1票〉と書き加えたのだった。

http://www.nytimes.com/2012/03/06/world/europe/fraudulent-votes-for-putin-abound-in-chechnya.html?scp=2&sq=chechnya&st=cse

 
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