#443 最近の銃撃戦とグローズヌイ

チェチェンニュース(転送・転載・引用歓迎)


 12月4日に、チェチェンの首都グローズヌイで、ゲリラと治安部隊の戦闘がありました。日本語の報道でも流れていたので、知っている方も多いかと思います。10月にも大規模な爆破事件があり、不穏な情勢は続いています。

 これらの件についてはそれ以上の情報はありませんが、最近チェチェン人から直接聞きとったインタビューをお伝えします。事件の背景や、今のグローズヌイの雰囲気が少しでも伝わるといいのですが。ご一読ください。(大富亮)

 毎日新聞:<チェチェンイスラム系集団と銃撃戦、警官10人が死亡
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141205-00000003-mai-eurp



■最近のグローズヌイ


 チェチェンとヨーロッパを行き来している、ビジネスマンのチェチェン人、Dさんに話を聞きました。ちょっと尻切れトンボになってしまいましたが、情報として紹介します。


【CN:10月5日にも、グローズヌイで爆破事件があって警察官5人が死亡しましたが?】


 その時、たまたまグローズヌイにいました。大きな爆発音が聞こえたけど、「男が外に出たら危ない、すぐ拉致される」と言われて、家の中にずっといました。

 カディロフ首長の誕生日で、いろいろな有名人を呼んでイベントをやっていました。クリミアから政治家も来ていましたね。その最中の自爆攻撃だから、カディロフはかなり恥をかかされたわけですが、「祭りは祭りだ」とか言って、続けました。その後花火の打ち上げもあったみたいだけど、さすがに警官も殺されているのに、それはないだろうと、警察関係の人たちは怒ってましたね。


【CN:チェチェンでのビジネスの可能性はありますか?】

 チェチェンと今の国の間でビジネスができないかと、いつも考えながら行くんですが、人は消されたりするし、とても生活できないから難民化して出ていくし、政府の腐敗はひどい、とてもこれじゃ仕事になりそうにありません。今は、ただ家族や親戚の顔を見に行っているだけです。

 外からチェチェンに出入りしている僕みたいな人間は、いつもマークされてます。比較的カネも持っているし、カディロフにとって危険人物ではないかどうかが気になるんです。反抗しそうだったら、カネを取り上げたり、殺したりします。


【CN:「イスラム国」にチェチェン人がいることが時々話題になりますが……】

 ヒゲを生やしたり、ヒジャーブを被っているだけで、イスラム過激派とみなされて逮捕されます。こんなひどい状態だから、人がどんどんトルコとかヨーロッパに逃げています。シリアでイスラム国(IS)に入っているチェチェン人は1,500人くらいいるとか。この人たちはほとんどヨーロッパ経由ですね。イスラム国の上の方の人たちが言っていることは正しいような気がするけど、実際に下の方の人がやっていることを見ると、ちょっとどう言っていいのか……。

 どちらにしても、シリアのチェチェン人たちからのビデオも結構ネット経由でチェチェンでも流通しているし、カディロフとしては、そういうところで訓練したチェチェン人がチェチェンに帰ってきて、反抗することを真剣に恐れているようです。


【CN:最近、気になったことは?】

 今回、すごく面白いと思った話なんですが、リズワンなんとかさんという歴史家が、『チェチェン史』という本を書いて、出版したそうです。その本には、今のチェチェンのことも書いてあって、「今、巨額のお金をかけてスキー場などのリゾート施設や、グラウンド、音楽ホールが作られているが、この投資の本当の目的は、チェチェンのためではなく、全部揃った頃にチェチェン人を追い出して、ユダヤ人に入植させるためだ」という意味のことが書いてあったみたいなんです。

 グローズヌイやモスクワの書店に送られた後でわかって、すごく話題になって、傀儡政権もびっくりして、テレビのニュースでも流しました。「こんなデタラメな本が出ている」というような論調ですが。書いた人はもうだいぶ年寄りだから、そんなに怖くないのかもしれないですね。

 どちらにしても、この話は「いかにもありそう!」という感じでチェチェン人に受け止められてますよ。

 ユダヤ人? 昔はいましたよ。ドゥダーエフが政権を取る前は、グローズヌイの街にユダヤ人の町もあって、それが今のグローズヌイ・シティのすぐ近くです。このやり方、巧妙だと思いませんか? カディロフみたいな、バカなチェチェン人にたっぷりカネをやって、内戦で社会をめちゃくちゃにして、チェチェン人を追い出しながらも、その国自体は住みよいように改良する。時期をみて乗っ取る……。


【CN:そういう公共事業もカディロフがらみですか】

 もちろん。カディロフは相変わらずひどいですよ。ものすごいカネを持ってる。モスクワからくる復興資金の40%は、そのままモスクワに戻っていくんだけど、そこからリベートを取っていて、自分では何のビジネスも出来ないけど、金はたまる一方です。

 チェチェン中で働く人の給料からピンはねをしていて、自分の基金に入れさせます。カネをね、ルーブルとかドルじゃなくて、「トン」単位で計算して取引してる。それをドバイに空輸して、預金する。これもロシア政府が黙認しています。何にも使い道がないので、カディロフの取り巻きたちはフランスのニースに行って超高級外車だとか、クルーザーを乗り回して遊んでます。

 チェチェンでは、カディロフツィ(カディロフ一派)が道を走るときには、何時間も前から道が塞がれています。本当に人の命が軽いから、カディロフツィの車に道を譲らなかったり、万が一かすったりしたら、すぐ銃で撃たれます。

 知り合いに、食品の量販店で管理職をしている女性がいるんです。その話もひどかった。

 新しい従業員の採用係をまかされたんだけど、小さい店なのに、募集をしたら千人くらい応募が来て。一人しか採れないのに。みんな200ドルとか、300ドルを持ってきて、「私を雇ってください」って。女性ばかり。みんな必死で。もうめちゃくちゃで、怖くなって管理職の人は逃げちゃったくらい。


【CN:虐待の情報はありますか?】

 その管理職には男性の部下が2人いて、一人が2日間無断欠勤して、その後出てきたけど全然元気がないから、「どうしたの」と聞いたら、こっそり「拉致された」と答えた。服の下は傷だらけ。

 拉致されると、ひどい虐待に遭います。家族を目の前でレイプすると脅されることも多いし、卑猥な言葉を浴びせられて屈服させられることを、チェチェン人は何より嫌うんです。ある知り合いは「もう何もかも嫌だ」と言って、ジャケットの下に銃を隠して歩いていました。自殺用? 違います。チェチェン人は自殺だけは絶対にしません。街でカディロフツィとトラブルになったら、それを乱射して、できるだけ相手を殺してから、自分も撃たれるつもりなんですよ。

 グローズヌイで、知り合いの2人兄弟が、家の前でちょっとカディロフツィとトラブルを起こしただけで車のトランクに押し込められて、行方不明になってしまったんです。3,4日してから、また家の前で放り出されているのが見つかったんですが、その時には大ケガをしていました。

 3か月くらい前に、こんな事件がありました。スポーツジムで、アルハノフの甥と、いまの大統領警護隊の実力者の甥がケンカになって、警護隊がかけつけて、いきなりアルハノフの甥を銃で撃ったんです。

 アルハノフは2000年代のはじめにロシアの傀儡政権で大統領をしていた実力者で、チェチェンでは力のある有名な一家で、カディロフも一目置いています。ところが、そのアルハノフ家の人間を、確かめもせずに殺したものだから、カディロフは急いでアルハノフ家に行って、謝罪しました。

 こういう「謝罪」は意外によくあるんです。その場をテレビカメラで撮って、「私は謝るから、復讐はしないと約束してくれ」「はい、復讐はしません」という和解を演出するんですが、アルハノフ家の人たちは、「復讐しない」という言葉だけは意地で言わなかった。だから、カディロフがいつか力を失ったら、復讐されるでしょう。

 それで、私が思うのは、どうもカディロフツィには、「血の復讐*」についての知識が足りないのかなと。「チェチェン人同士の内戦」とも言われますけど、悪いことをしているのはダゲスタン系のチェチェン人で、実は本当のチェチェン人ではないっていう意見も根強いです。だって、本当のチェチェン人なら血讐が怖くて人殺しなんかできないですから。

*:「血の復讐」:チェチェン人の間で紛争があったとき、それを仲裁し、処罰を課す法律外のルール。犯罪と同じだけの処罰が行われ、紛争の世代の何代後でも適用されるのが原則だが、反省を示すことによって、しばしば処罰は軽減される。また、処罰される側の親族も含めた社会的なコンセンサスを伴う。
このためチェチェン人の間で血の復讐は、紛争を拡大するのではなく、抑止するためのルールという意味合いが強いとされている。
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