ネフスキー急行−ロシア・チェチェン戦争の新しい段階

12月3日付でカフカスセンターへ掲載されたアンドレイ・バビツキー氏の記事です。
御参考までに。(プラハ・ウォッチドックからカフカスセンターへの転載記事です)

ネフスキー急行−ロシア・チェチェン戦争の新しい段階

 「ネフスキー急行」爆破に関し、12月2日にコーカサスムジャヒディンによってカフカスセンターに投稿された犯行声明文は、特に信憑性が高いとは思えない。コーカサスの地下組織がこの種の攻撃をうまく計画し実行できるという事にはいささか疑いの余地があるし、声明文にはディティルが欠けている。かつてシャミール・バサーエフがテロ攻撃に関し表明する場合、関係者の名前を明らかにしたり、ビデオを発表するなど、極めて細部に至るまで詳述した。コーカサス首長国は、8月17日にナズランの警察署で起こった爆破事件に関するインターネットビデオに証拠付けられるように、この伝統を踏襲した。しかし今回の場合、それとは似ていない。


 北コーカサスにおける出来事にうとい人にとって、カフカスセンターの声明文は強力なテロ組織の存在を示す事を目的とした、しかし空疎な声明文のように見えるだろう。実をいうとこれは、あるチェチェンとロシアの役人たちから昨日聞いたばかりの批評なのである。サヤンシュシェンスク水発電所の爆発を自分が起こしたという、ドク・ウマロフに忠誠を誓ったロシアのイスラム系グループの行為も、ばかげているように見える。事件を分析した専門家は、テロ攻撃であったという可能性を完全に除外し、その結論の妥当性は十分な知識を持たない者にとってさえ明白だった。

 しかし、ネフスキー急行の災難は完全に異なる。治安機関や爆発物専門家は、列車が故意に爆破されたという主張で全員が一致している。私は当局が爆破事件を組織したと糾弾するような陰謀説をここで調べるつもりはない。当局を信じるなら、起こったのはテロ攻撃である。すると自然な疑問が浮かぶ。市民の大量殺害の必要性を道徳的に正当化しうる理論的土台を持った民兵組織がロシアにあるのか。あるとすれば、リーダーのドク・ウマロフが昨春よりテロ活動の再開を宣言したコーカサス首長国しかない。

 彼の言葉が空虚な脅しではないという事は、この夏とてもはっきりした。爆破に次ぐ爆破が続き、その一方で地下組織は幅広いテロ活動に従事した。イングーシの大統領殺害の企て、数人の高官を殺害したグロズヌイ中心部での爆発や、ダゲスタンの内務大臣暗殺、ナズランの警察署襲撃、そういった行為が、自爆犯により実行された。ひと夏でコーカサス首長国妨害工作やテロを極めた。市民の死を非難する人々への答えとしてウマーロフは、「チェチェンでの戦争をやめようとしない治安機関や国家機構の維持に税金をつぎこむロシア人に責任がある」と説明している。その同じ議論が、昨日の声明文にも示されている。

 北コーカサスのムジャヒディンは、毎日のように何人かづつ戦闘で殺される。戦闘において、あるいはテロ攻撃において命を犠牲にするという彼らの覚悟は絶対的であり、ロシア国内の右翼、民族主義者の比ではない。実のところ、それら二つの死の種類のいずれによって彼らが死んでいったのかは、ドク・ウマロフの発表からは区別がつかない。

 不器用で極めて疑わしい鉄道爆破の犯行声明文はどうかというと、その説明を見い出すのは難しくない。北コーカサスの地下組織は完全な地下組織なので、可能なコミュニケーション手段の選択は限られている。それゆえ関与の証拠はカフカスセンターのサイトへ後に表れる事もないだろう。

 テロリストは、軍事行動を映像化したり、攻撃準備の細かな描写を公開することはできないからだ。ロシアにはまだ沢山の他のターゲットがあるので、匿名である事は遥かに重要である。当局に日夜追われているコーカサス首長国のような小さな組織でもっとも価値がある人とは、自爆に志願する若者達ではなく、群衆の中に紛れ、爆弾を備え付け、無傷でその場から逃げ遂せる謀略のスキルを有するプロフェッショナルである。

 公式情報の通り、北コーカサスの地下組織にたった数百人の戦力しかないとしても、彼らはロシア最大の不法組織である。実務的なウマロフがその戦力を浪費するようには見えない。テロ行為に関するいかなる情報も実行犯の捜査を導くかもしれないので、もし公衆の好奇心が部分的に満足されていないなら、それはテロリストにとってよりよいことである。

 ウマロフは北コーカサスの外、ロシアの中心部に向けて戦いを遂行してきた。それはバサエフによって実行された戦争の形とは違う。バサエフはテロを、ロシアの指導部を無理矢理同意させてチェチェンを独立させるための手段と見ていた。ベスランの後に彼がテロはもはや効果的でないと実感した時、彼はテロ計画を中止した。

 これに対して、今日のムジャヒディンの目的は不明瞭である。彼らにとってテロは、天の与えた武器である。政治的、軍事的成功には結びつかないだろうが、究極的には、ロシアを灰と化し、今は異教徒に支配されている全世界にイスラム体制を樹立する事を望んでいる。

アンドレイ・バビツキー(プラハ・ウォッチドッグより)

原文: http://www.kavkazcenter.com/eng/content/2009/12/03/11229.shtml