チェチェンニュース #343

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 このところ、いろいろチェチェン関係のニュースを読んでいたのですが、ためてしまったので、リストをお送りします。「つづきを読む」のリンクをクリックしていただれば、それぞれの本文を読むことができますので、興味のあるものをチェックしてください。

 チェチェンについてのニュースは、調べてみるとあるわあるわ、という感じです。遠いところなので、状況が把握できているとは到底言えないのですが、武力衝突も人権侵害も、まったく止まっていないということが改めてわかりました。また少しづつ発信していくつもりです。(富)

INDEX

*エステミーロワ殺害事件:人権活動家はロシア政府を信じない
*ロシア政府の新戦略?:ウマーロフ殺害、カディロフとガンタミロフの交代
*ロシア連邦保安庁、権限をさらに拡大
*ダゲスタンが騒然としている
*発電所襲撃テロ報道と人権問題の無視
*連日のニュース:チェチェン・イングーシ、民間人に対する強制失踪が続く
*2009年 チェチェン人権情報のアップデート (メモリアルによる)
*「メモリアル」による2009年秋の報告書 『北コーカサス紛争地の情勢』
*ウマーロフの声明

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エステミーロワ殺害事件:人権活動家はロシア政府を信じない

 (独紙シュピーゲル/2010.7.16) 人権活動家のナターリヤ・エステミーロワ殺害事件の犯人は「すでに特定されている」──ロシアのメドベージェフ大統領は、ドイツのメルケル首相に対してこう語った。しかし多くの人は信じていない。ひとつには、その容疑者がエステミーロワを殺す動機が大してないこと。もうひとつは、容疑者がすでにロシア当局によって殺されているからだ。

つづきを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100720/1279616388


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■ロシア政府の新戦略?:ウマーロフ殺害、カディロフとガンタミロフの交代

 カディロフは中央に「栄転」させられ、その代わりガンタミロフ(元グローズヌイ市長)に権力が手渡されるだろう、という情報。信頼性の程度はわからないが、今のカディロフ体制にはロシア側も手を焼いている側面があるので、計画の存在そのものは荒唐無稽でないと考えて、掲載する。

 7月30日カフカスセンター:コーカサス首長国指導部の情報源によると、ロシア政府は、ソチオリンピックまでにムジャヘディーンの抵抗運動を撲滅するために、新しい計画を採用する模様。

 クレムリンは次の二つのことを認識している。ひとつは、プーチンが行ってきた「カディロフ計画」が、すでにすべてのリソースを使い切り、限界に達していること、もうひとつは、ムスリムの連合体としてのコーカサス首長国が、コーカサスにおいてもっとも危険な要因であることである。

 つづきを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100731/1280538924


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ロシア連邦保安庁、権限をさらに拡大

 ロシア連邦保安庁(FSB)の権限の強化が、メドベージェフ政権になって、ますます進んでいる。

 7月18日 毎日新聞:ロシア下院は16日、「犯罪につながるような容認できない行動」を取った個人に「警告」を与える権限をFSBに与える法案を可決した。「警告」の具体的内容には触れていない。法案にはさらに、FSBの活動を妨害した個人を拘束したり、罰金を科す項目も含まれている。上院は19日に採決する予定で、可決が有力視されている。

 ロシア国内の人権団体は、KGBが同じような権限を使って反体制派のソ連国民を弾圧した前例を取り上げ、法案が人権状況の悪化につながる恐れがあると警告する。議会内でも与党系の「公正ロシア」が下院採決で反対に回るなど、警戒論が根強い。

毎日:ロシア:情報機関に強権「KGB並み」に警戒論 大統領、再選へ布石か
http://mainichi.jp/select/world/news/20100718ddm007030110000c.html  

 そして、WindowonEurasiaのポール・ゴーブルによると、旧ソ連国家保安委員会(KGB)から分離していた対外情報庁 (SVR)が、今年度末にはFSBに再統合されるという消息筋の情報を掲載している。もともとSVRの分離は、エリツィン時代に情報機関の権限を抑制するために行われたものだったので、今回の動きはロシアの民主化の可能性をさらに摘み取るものになる。

 WoE: FSB to Re-Absorb SVR by End of 2010, Moscow Journal Says
http://tinyurl.com/35p4eq5


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■ダゲスタンが騒然としている

 先週のニュースですが、チェチェンの東隣、ダゲスタンで鉄道の爆破、殺人や誘拐が相次いでいます。政府当局による人権侵害や、反政府勢力によるゲリラ攻撃などが入り乱れている印象ですが、北コーカサスの不安定化は進んでいるようです。参考まで:

キジルユルト地区で男性2人が殺害された
7/21 コーカサスノット:今日夜、ダゲスタンのキジルユルト地区のキロバウル村で、2人の若者が何者かに銃撃され、死亡した。犯人達は、VAZ-2109型の自動車に乗っていた2人を銃撃し、2人は即死した。ロシアのRIA通信によれば、この2人はいとこ同士だといい、このうち一人は、過激派の宗教指導者バガウディン・マゴメドフ(ケベドフ)との関係があったとしている。なお、被害者の名前は公表されていない。

つづきを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100726/1280116223


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発電所襲撃テロ報道と人権問題の無視

 報道によると、チェチェンに近いカバルジノ・バルカリアで、水力発電所が爆破される事件がありました。まだ犯行声明は出ていません。経済犯罪の可能性もあるので、慎重に事態を見ていく必要があると思います。(7/22現在、カフカスセンターには西側報道の転載しかありません)

 ところで、各紙の報道では、この事件の背景にあるのは、北コーカサスの反政府武装勢力のテロの増加や、治安の悪化であるとのこと。これは正しいように聞こえて、間違いです。たとえば朝日新聞はこう伝えます。


 同共和国は、かつて独立戦争で揺れたチェチェン共和国や、3月末のモスクワ地下鉄連続爆破テロ事件を首謀したイスラム武装勢力が潜むと見られるダゲスタン共和国などとともに、北カフカス連邦管区を構成。チェチェンでのテロは沈静化する一方、隣のダゲスタンではテロが相次ぎ、最近は北カフカス全域へと拡散する傾向にある。

朝日 2010.7.21 水力発電所でテロ? 2人殺害し爆破 ロシア・北カフカス
http://www.asahi.com/international/update/0721/TKY201007210455.html


 これでは、読者は事態を理解できないと思います。なぜ「テロ」が相次ぐのか。それは、北コーカサス全域での汚職や腐敗、広範に発生している強制失踪や違法処刑(最近ではこういう情報)などの人権侵害、そして、ロシア政府が後ろ盾となっているラムザン・カディロフによる親ロシア派政府の存在など、多様な要因があって、やっと、チェチェン独立派などの武装勢力の活動が理解できるわけです。

 こうした記事は、ただ、「あのあたりはテロで危ないからね」といった、事情にうとい人々が抱く印象に迎合し、それ以上の何ももたらさない記事だと言わざるをえません。そして、同じ印象を再生産しつづけます。どうして、この機会にそういった記事しか書けないのか、正確なところはわかりませんが、普段、北コーカサスの人権状況に関心がないか、あってもほとんど記事にしていないため、文脈上いきなり扱うことはできないのでしょう。そうでないのに、なお書けないなら、別種の問題ですね。

 しかしそれらは書き手の側の都合にすぎなくて、理不尽な状況の中で苦しめられている北コーカサスの人々にとっては、これらの報道では自分たちの苦境は世界に伝わらず、つまはじきのままです。最大の問題は、この地域をロシアが強権的に支配していることです。武装闘争は結果にすぎません。

 このニュースの目的は、報道のあら探しではありません。報道に携わっている方々と情報を共有し、よりよい報道に近づけるための情報源として使っていただきたいと考えています。情報が遅く、周回遅れになってしまうこともありますが、過去に蓄積されたアーカイブなどを通して、チェチェンおよび北コーカサスの情勢について知っていただければ幸いです。(大富亮/チェチェンニュース)


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■連日のニュース:チェチェン・イングーシ、民間人に対する強制失踪が続く

 6月18日 www.waynakh.com ロシア占領軍および裏切り者たち(親ロシア派)は、相変わらず罪もないチェチェンの市民を、ムジャヘディーンに支援をしていると疑っては、誘拐しつづけている。

 2010年6月12日、親ロシア派はグデルメス地区のエンゲル・ユルト村の21歳の若者を誘拐した。同派によれば、2010年5月から、若者がムジャヘディーンのところに食料を運んでいたのだという。

 6月13日、同じエンゲルユルト村で、21歳と23歳の若者が、親ロシア派に誘拐された。同派は、この二人も、ムジャヘディーンに参加しようとしていたのだと主張している。

 6月15日、アチホイ・マルタン地区では、親ロシア派は、カフカス高速道路のチェックポイントで、イングーシの住民を、チェチェンのムジャヘディーンに加わっているとして拘束した。拘束されたのは、イングーシのスンジャ地区、ハラシキ村から来た33歳の人物。

 6月21日、チェチェン南部のスタール・アチホイ地区からきた36歳の住民が、親ロシア派によって拘束された。これも、チェチェン・ムジャヘディーンへの食料の供給を疑われた。

続きを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100721/1279678559


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■2009年 チェチェン人権情報のアップデート (メモリアルによる)

 2009年春の報告書『北コーカサス紛争地の情勢:人権状況からの分析』より:

チェチェンは平和になった」というのが、現在のロシア政府と、現地の傀儡政権が口を合わせて言うところですが、昨年4月に「対テロ作戦体制」が解除された時点で、まったくそうでなかったことが明らかになっています。この点についての報告書がありましたので、ひとまず戦闘状況について送ります。

 以下に、チェチェン現地での戦闘の状況について抜書。

 2009年4月16日、ロシア政府対テロリズム委員会のボルトニコフ委員長(連邦保安庁FSB長官)は、チェチェンに 1999年以来敷かれていた「対テロ作戦体制」の解除を宣言した。これによって、10年に及ぶ非公式の戦争に、公式の区切りがなされたことになる。しかし、現地での報道や、メモリアル職員の報告を総合すると、状況は作戦体制解除とは関係なく悪化していることが明らかである。

 作戦体制解除と同時期の軍事衝突には、次のようなものがある:

 3月29日、アフキンチュ・バルゾイで、ロシア内務省軍と、武装勢力15名ほどの間で戦闘があり、内務省軍側には死者がなく、武装勢力2人が死亡した。

 3月末、ほぼ同時期に、チェチェン南部のヴェデノ地区、ネフトヤンカ村に30人から35人の武装勢力が進入し、警察署長を殺害し、現地の役所に彼らの旗を掲げた。同時に、数人の若者が武装勢力とともに姿を消した。それには警察署長の甥も含まれていた。

続きを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100722/1279761023


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■「メモリアル」による2009年秋の報告書 『北コーカサス紛争地の情勢』

 人権侵害の事例が、おそらく殺害された人権活動家、ナターリヤ・エステミーロワの調査に基づいて記述されています。

チェチェンに関して:

 2009年夏期(6-8月)の期間の公開情報を集約すると、この間にロシア治安当局側には142人の死亡者があり280人の負傷者が出た。これは、ここ5年間の同時期の比較の中で、最大の損害である。最大の事件は52人が死亡し、102人が負傷した事件だが、これは4月に「対テロ作戦体制」が解除された後で発生したことを特記しておきたい。

 2008年に、メモリアルが集計した誘拐の件数は、チェチェン全体で42人だった。(言うまでもなく、完全な数字ではない)そのうち21人が、虐待を受けたのち、釈放または身代金と引換に戻され、12人がそのまま失踪しており、5人が収容所のなかで『発見された』。

 そして、本報告書が対象とする2009年の9カ月間に、チェチェン内での誘拐は86人にのぼり、うち57人が虐待を受けたのち、釈放または身代金と引換に戻され、9人が殺害され、16人が失踪、4人が収容所のなかで発見された。

 誘拐事件をめぐる状況から、各事件に国家が関与していることは確実である。

続きを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100722/1279761022


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■ウマーロフの声明

 チェチェン独立派から発展した「コーカサス首長国」のウマーロフ司令官からの最新の声明に関するニュース。

 北コーカサスの反乱司令官であるドック・ウマーロフが、新しいビデオ声明を発表した。「北コーカサスの首長」と名乗るウマーロフは、同志の野戦司令官であるスプヤン・アブドゥラーエフとともにビデオに映り、イングーシの野戦司令官アフメド・エブロエフ(アッカ・マガス)司令官が、6月に逮捕されたことを認めた。  このビデオ声明は、3月29日のモスクワ地下鉄爆破事件の犯行声明以来はじめてのもの。この犯行声明は、その内容の真実性が疑われているところである。今回のビデオでは、ウマーロフは以前より元気そうである。

つづきを読む http://d.hatena.ne.jp/chechen/20100720/1279619330


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