誰が アンナ・ポリトコフスカヤを殺させたのか?

 誰が アンナ・ポリトコフスカヤを殺させたのか?
1)2011年5月31日 15:59 独立系ラジオ局 『エコー・モスクワ』の記事から(デンマークの社会運動団体、“自由カフカス”の報道サイト、『チェチェニュース』にもこの記事が同日転載されている)
内務省中央機関職員により、チェチェン共和国アンナ・ポリトコフスカヤ殺害事件の容疑者が拘束された
これは今朝実際に起きたことである。ロシア通信社が治安当局筋の談話として伝えたところによると、ルスタム・マフムードフは直ちにモスクワに送られた。最初にマフムードフの拘束を知らせたのは彼の兄弟の弁護士である。捜査委員会は現在のところコメントをしていない。
以前陪審員たちはポリトコフスカヤ事件の3人の被疑者を無罪としたが、無罪判決は破棄され、事件の資料は捜査班に差し戻された経緯がある。
ポリトコフスカヤの子供達の代理人である弁護士アンナ・スタヴィツカヤは、殺しの依頼人が見つからない以上、マフムードフの拘束がこの犯罪の解明に資することはあり得ない、と考えている。
31.05.2011 15:59 : Предполагаемого убийцу Анны Политковской задержали в Чечне сотрудники Центрального аппарата МВД
Это действительно произошло сегодня утром. Рустама Махмудова сразу отправили в Москву – об этом передает РИА со ссылкой на свой источник в правоохранительных органах. Первым о задержании Махмудова сообщил адвокат его брата. Следственный комитет пока воздерживается от комментариев.

Ранее присяжные оправдали троих обвиняемых по делу Политковской, однако оправдательный приговор был отменен – материалы дела вернули следственной группе.

Адвокат Анна Ставицкая, представляющая интересы детей Политковской, считает, что задержание Махмудова вряд ли приведет к раскрытию преступления, поскольку не найдены его заказчики.
2)殺害実行の容疑者拘束=ロシア著名女性記者事件
時事通信 5月31日(火)22時30分配信
 【モスクワ時事】2006年10月に起きたロシア著名女性記者、アンナ・ポリトコフスカヤさん殺害事件で、ロシア連邦捜査委員会は31日、指名手配されていたチェチェン人、ルスタム・マフムドフ容疑者の身柄をチェチェン共和国で拘束したことを明らかにした。
 同容疑者は殺害実行犯とみられており、尋問のためモスクワに移送される。迷宮入りの様相を強めていた事件は、新たな展開を見せる可能性が出てきた。
 
チェチェン紛争における人権侵害などを鋭く告発する報道を行っていたポリトコフスカヤさんは、モスクワ市内の自宅アパート入り口付近で射殺された。

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1)は『エコー・モスクワ』というロシアの独立系ラジオ局のサイトからの引用です。2)の時事通信による記事は、例によってロシア政府の公式報道に基づいているため、ニュアンスの違いがあります。

また、この犯人がアンナ殺しの直接の下手人であることはほぼ間違いないと思われます。モスクワにはチェチェンマフィアを含む犯罪者集団が多数存在し、彼らはFSBロシア連邦保安庁)とも繋がりを持っています。

アンナ・ポリトコフスカヤ自身も、「暗殺・リトビネンコ」という映画の中で、FSBと連携して動いているチェチェン人のグループが居る、と語っています。

それで、残念ながら、上のチェチェン人は直接の下手人でしょう。しかし、彼は単なる殺し屋であり、「道具」に過ぎません。真犯人は別にいる、と考えられます。

プーチン(メドヴェージェフ)体制下のロシアにおいてはこうした殺し屋による政敵や人権活動家、ジャーナリスト、弁護士らの殺害事件が日常茶飯事化しています。

ところで、今回の『エコー・モスクワ』の記事には、数名の読者によるコメントがついていました。その代表的なものは、「アンナは チェチェン人の人権擁護のためにあんなに尽くしたのに、恩知らずなチェチェン人に殺されてしまった」というものです。

まさに、真犯人の狙い通りの反応と言えましょう。まるでアンナの仕事が意味の無いものであったかのような印象を与え、さらにチェチェン人に対するマイナス・イメージを拡げています。

さらに私が落胆したのは、在外チェチェン人の報道サイト、『チェチェニュース』にこの記事が転載されていたのに対し、コメントがゼロだったことです。

2006年にアンナが殺されてから後、著名な人権擁護活動家やジャーナリスト、政治家、弁護士の他、多くの無名のチェチェン市民が殺されています。いつまでもアンナのことばかり言ってはいられない、という気持ちが、在外、国内を問わず、チェチェン人の間にはあるのかもしれません。

その一方では、岡田さんが紹介されているブダーノフ元大佐の殺害事件に関しては、昨日の時点で既に12件ものコメントが入っていました。ブダーノフが起こした強姦・殺人事件の被害者であるエリザ・クンダーエワの父親が、ブダーノフを殺したのはチェチェン人ではなく、自分がこれに関わっていない以上、血の復讐では有り得ない、と言っているにも関わらず、圧倒的大部分のコメントは、チェチェン人の手でブダーノフに神の裁きが下された、というものでした・・・。

アンナは命がけでチェチェンやロシアでの汚職や人権弾圧についての取材を続けていました。その著作は欧米各国や日本で紹介されています。

ちなみに日本でNHKから出版された『プーチニズム』、『ロシアン・ダイアリー』はもうじき絶版になってしまうそうです。

彼女の書いたものは、チェチェンのことだけではなく、ロシアを知るためにも、必要です。チェチェン連絡会議のサイトや集会では、在庫がある限りアンナの著作を販売します。
(A.M)