#400 ボストン爆破事件とチェチェン人

 (大富亮)

 ひどく奇妙な事件が起きた。4月15日にボストンマラソンのゴール付近で起こった爆破事件の容疑者がチェチェン人の兄弟であり、一人は追跡中に射殺され、弟の方が逮捕されたという。チェチェンに関心を持ってきた人であれば、これは911なみに衝撃的な事件だろう。

 ジョハル・ツァルナエフ容疑者(19)は19日夜(日本時間20日午前)に逮捕されたが、重体で病院に収容された。

 情報がたくさんが流れているが、日本では伝えられていない情報があった。

 ひとつは、ダゲスタンに住んでいる容疑者の親の話だ。

 「息子はFBIにずっと監視されていた。こんな事件が起こせるはずはない。はめられた。無実を確信している」と言う。(末尾にインタビューの日本語訳)

 チェチェン独立派スポークスマンのザカーエフは、ロンドンで次のように声明した。「事件の犠牲者にお悔やみを申し上げるとともに、一日も早い負傷者の回復を祈ります。チェチェン人がアメリカ市民を憎む理由はなく、このような事件を起こして得をするのは、ロシア政府に裏切った者しかいない。我々は政治的目的を達成するためのテロを非難する。また、この事件をもって、チェチェンおよびコーカサスの一般の人々を抑圧することに反対する」

chechencenter: http://t.co/j4lSe9PfzI


 一方で、カディロフ・チェチェン首長(親ロシア派の独裁者)は「彼らはアメリカで長く暮らしたんだから、価値観もアメリカで出来たんだし、責任はアメリカにある。事件をチェチェンと結びつけないでほしい」と言い、明らかに迷惑そうだ。(21日、東京新聞)


 いまのところ、疑問は一点に集約される。「こんな事件を起こして、誰が得をするのか?」だ。

 アメリカ政府が、爆破事件を自作自演して、市民をわざわざ巻き込むのは・・・あまり意味がないような気がする。

 チェチェンや、コーカサス独立の大義から言っても、ボストンで事件を起こす必然性はない。むしろボストンはアメリカのチェチェンシンパたちがたくさん住んでいる地域だ。その代表がビクトリア・ププコだし、チェチェン人医師のハッサン・バイエフが住んでいたこともある。今も住んでいるかも知れない。

 近く、彼ら、アメリカのチェチェン支援者たちの意見が出されると思う。

 各メディア報道に目を通していても、動機に関しては、せいぜい「大学で成績が伸びなかった」とか「英語が苦手だった」とか。動機といえる動機ではない。

 アルカイダとの関係も然り。なぜかCNNにまで、念を押すようにこんな記事があった。「ボストン爆弾テロ犯、FBIが過去に聴取 過激派との接触なし」。こんな具合だから、世界中の誰もが「?」という感じだろう。


 最後にロシア政府について。基本的に彼らは、どんな謀略でもしかけてくる。たとえば、1999年のモスクワアパート爆破事件。いまだに真犯人は逮捕されていないが、全部チェチェンのせいにされ、翌日から戦争が始まった。しかも、状況証拠は明らかにロシア連邦保安局の自作自演。「リャザン事件」で検索すると日本語でも出てくる。

 911でそうだったように、ボストンの事件で、ロシア政府は得をする。これでアメリカの世論は、チェチェンに対してかなりネガティブなイメージを持ったはずだ。クリントン時代以来、民主党政権チェチェンを人権問題として対ロシアのカードにしていたのが、これで使えなくなる。

 ロシアとしては、内心よくぞ事件を起こしてくれた、という感じだろう。

 あとはアルカイダが関係していたとして、その思惑やいかに。しかしどう考えても、マラソンを観戦しているボストン市民を殺害したって、彼らの「大義」には何のプラスにもならないだろう。

 そういえば、アルカイダとロシア政府が裏で結託していたら、今回の事件は腑に落ちるような気もする。そのあたりは、リトビネンコと常岡浩介さんが詳しいところだ。ロシア政府に殺されたリトビネンコの「ロシア闇の戦争」(光文社刊)は、いつ読んでもショッキングな事実ばかりだ。


 推測をいくつか書いたが、何よりジョハール・ツァルナーエフには、生きてもらわなければならない。まず、彼らが事件の真犯人であるかどうか、その場合動機が何だったのかを解明するためだ。アメリカの司法は、ロシアのそれよりは信頼できると信じたい。




 この事件には直接関係がないが、今日、4月21日は、1996年にチェチェンの初代大統領のジョハール・ドゥダーエフが、第一次チェチェン戦争の末期にロシア軍に殺害された日。


■ボストン爆破事件容疑者の母「息子たちは無実、これはでっちあげ」と主張

 ボストン爆破事件で殺害・逮捕された容疑者のチェチェン人、タメルラン兄弟の母親は、この事件がでっちあげであり、兄弟は無実だと主張している。ロシアのメディア、ロシア・トゥディの電話インタビューに答えた。

 母親のズベイダート・ツァルナーエワ(ダゲスタン在住):「100%、これはでっちあげです。私はそう信じています。彼らがテロのことなんか口にしたことはありません。息子たちはここ5年間(かつてロシア政府の要求でFBIが彼らの事情聴取をして以来)、FBIに管理されていたんです。FBIは、息子たちの行動をすべて把握していたはずです。息子達はそう話していました。なのに自分たちの意志でこんな事件が起こせますか? 息子たちは無実に違いありません」

WND Bomb mom: FBI monitoring my boys for years Claims images of sons at
blast site a 'set up' > Drew Zahn

http://mobile.wnd.com/2013/04/bombing-suspects-mother-this-is-a-set-up/?cat_orig=us

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