#431 ウクライナ情勢とチェチェン

chechen2014-03-01

(転送・転載・引用歓迎)

 (大富亮)

 ウクライナの首都キエフで、親ロシア派のヤヌコビッチ政権と、それに反対する野党勢力の間で、激しい政変が起こった。ヤヌコビッチは大統領を解職されたが、これからしばらくは、ロシアと西側のどちらがウクライナを獲得するか、いろいろなレベルで争いが続くだろう。

 今、大統領を解職されたヤヌコビッチはロシアに逃げ、プーチン政権に保護されている。その一方、正体不明の軍部隊が、ロシア系住民が多数を占めるウクライナクリミア半島の空港と空軍基地を一昨日から実力で掌握している。

 ロシア系住民が圧倒的多数のクリミア地域の特性を考えれば、この事態の解決は一筋縄ではいかないのだろう。しかし、ウクライナの政治にロシアが不当な介入をしているのは明らかだ。

 そんな動きの中で、気になっていたことがある。1月の中旬、野党勢力のリーダーの一人のユーリー・ルツェンコが、こう叫んでいた。

 「私たちがいま諦めたら、チェチェンの二の舞になってしまう。あの、ロシアに占領されたままのチェチェンだ」
 https://twitter.com/VitaliiSediuk/status/426056000475373570/photo/1

 ウクライナ人には、これで何が言いたいかわかるらしい。たぶん旧ソ連の国々なら、どこでも通じる訴えなのだろう。

 ところが、チェチェンのカディロフ首長はこう言い出した。「ウクライナは西側に支援されたテロリストによって政権を奪われた。虐待されている人々を守るために、平和維持軍を派遣する準備がある」と。
 http://www.themoscowtimes.com/news/article/chechen-leader-kadyrov-offers-to-send-troops-peacekeepers-to-ukraine/495326.html

 プーチンの傀儡であるカディロフの言おうとしていることははっきりしている。腐敗した政権を倒したウクライナの人々を「テロリスト」と呼び、クリミアを拠点にしてロシアの権益を守る先兵になろうということだ。

 旧ソ連で、国連などとは関係なく派遣される「平和維持軍」というものは、昔から、じつにいかがわしい。常にロシア政府の意向にしたがって動く、ロシア軍部隊の別称にすぎない。

 一方、シリア方面では、一人のチェチェン人が、シリアの反体制派に加わったという疑いでロシア政府に訴追されつつある。実際はかなりの人数のチェチェン人が参加しているようだ。彼らはチェチェンからではなく、亡命先のヨーロッパからシリアに入っている。要するにチェチェンを追い出された人々だ。アサド政権を支えているのはプーチンのロシアであり、こうしたチェチェン人の動きを、ロシアはとても警戒している。

 こんなふうに各地で、チェチェン人がさまざまな立場で登場している。

 ロシアと周辺諸国で起きている紛争を読み解くなら、チェチェンで何が起こってきたかを、もう一度思い起こす必要があると思う。


 ところで、今発売中の雑誌『フライデー』3月14日号では、「決死の現地ルポ ウクライナ革命」として、貴重な写真入りの記事が掲載されている。それはいいのだが、よく見ると佐藤優氏のコメントも掲載されていて、それによると「日本がロシア側につけば、北方領土の返還はぐっと近くなる」のだという。

 言っていることが15年前から変わらない……。あの頃はチェチェン紛争で、「ロシアの味方をすれば北方領土の返還は近くなる」だった。ついていくほど遠くなる地平線のようだ。そろそろマスメディアも、こういう人を重用するのはやめた方がいい。

チェチェンニュースについて: http://d.hatena.ne.jp/chechen/20140209/