#304 【声明】チェチェン人人権活動家の連続殺害事件について



【転載・転送歓迎】

 *【声明】チェチェン人人権活動家の連続殺害事件について

 先月から続く、チェチェンでの連続殺害事件について、チェチェン連絡会議の声明文を発行します。事件をめぐっては、新聞での扱いが小さい上、記事だけでは混乱してしまう部分もあり、この声明では、できるだけ具体的に説明しています。

 末尾に賛同フォームがあります。ぜひ、ご賛同をお願いします。

 また、アムネスティ・インターナショナルも、「人権活動家狩りに終止符を」という国際ニュースを発行しました。こちらも、ぜひお読みください。

 なお参考として、ラムザン・カディロフへのインタビューを掲載しました。
http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090813/1250163104



【声明】チェチェン人人権活動家の連続殺害事件について


 2009年8月14日
 呼びかけ:チェチェン連絡会議


 ロシア南部、チェチェン共和国において、誘拐・殺害事件が相次いでいます。7月15日、チェチェン人の人権活動家で、ロシアの人権団体「メモリアル」の現地代表を務めていたナターシャ・エステミロワさんが何者かに誘拐され、その日のうちに銃殺遺体となって発見されました。

 また、8月10日には、チェチェンの首都グローズヌイで、「若者を守ろう」という、戦争を経験した若年層や孤児を支援するNGOを運営していた、ザレーマ・サドゥラーエワさんと、夫のアリク・ジャブライロフさんが、二人同時に誘拐されたあと、すぐに銃殺され、翌11日に遺体が自動車のトランクに詰め込まれているのを発見されました。この他にも、大勢の一般市民が、同様の手口で誘拐/殺害されており、その件数は今年になって増加しています。

 暴力の蔓延するチェチェンの中で、勇気をふりしぼって、人権のために活動していた人々が、こうして残酷に殺害されていることを知り、私たちは、悲しみと強い憤りを感じずにはいられません。

 心から、この勇気ある方々のご冥福をお祈りいたします。


 1991年に独立を宣言したチェチェン共和国は、2度にわたるロシアの軍事侵攻を受け、現在はロシア政府が後押しするラムザン・カディロフ大統領の親ロシア政権が、その大部分を支配しています。カディロフ氏は、これまで多数の虐待と非合法処刑事件に関して、チェチェン人のみならず、アムネスティ・インターナショナルヒューマンライツ・ウォッチなど、多くの人権団体から批判を受けています。

 相次ぐ事件のうち、とりわけ、エステミロワさんの殺害については、カディロフ大統領派の関与が強く疑われています。事件のあった日は、カディロフ派が行った虐待事件に関して、エステミロワさんは被害者の前で報告する予定でした。また、「メモリアル」は、カディロフ氏自身が、エステミロワさんに対して直接、脅迫をしていたと声明を出しています。

 さらにカディロフ氏は、殺害への関与を否定しつつも、メディアを通じ、エステミロワさんに関して「誰も相手にしていない、恥知らずの人物」などと呼び、人権活動家に対するイメージダウンと、さらなる犯罪を誘発しかねない発言を繰り返しています。

 このような要因を考えるとき、ロシア政府には、カディロフ氏に対する捜査も含め、実体のある公正な犯罪捜査を行い、事件の再発を防止する責任があります。もしもそうしないのであれば、ロシア政府は、このような未解決の事件に対して、カディロフ氏と同様の責任を有する──犯罪を容認し、これを支援していると言っても、過言ではないでしょう。

 日本のメディアは、「現在のチェチェン国内は比較的『平穏』である」と解説する傾向があります。しかしこれは、このような人権侵害事件や、散発的に発生するゲリラ戦を知りながら、現実をあえて無視する表現であると、私たちは考えます。

 また、サドゥラーエワさん夫妻の殺害事件に関しては、「武装勢力」によるものだという見出しが目立ちました。これまでのチェチェン報道において「武装勢力」とは、主にロシア軍に抵抗するチェチェン独立派を指すものでした。しかし、今回のように、チェチェンで人権活動家たちを襲っているのは独立派ではなく、前述のようにカディロフ大統領派である可能性が、かなり高いと言えます。

 人を誘拐し、銃殺する集団は、独立派であれ、親ロシア派であれ、「武装勢力」と呼べるでしょう。しかし、これまでの文脈に照らすとき、こうした文言は、犯行主体が独立派であるかのように誤解させるものでしかなく、それを避けるために、より具体性のある文言をあてることは容易なはずです。

 また、チェチェン侵攻にはじまる暴力の渦が、チェチェンから、近隣のコーカサス諸国へと波及し、年々、腐敗と人権侵害、武力衝突が増えています。とりわけイングーシの人々には、カディロフ氏が国境を越えて「治安作戦」を行おうとしていることに対する反感や恐怖が強く、このような暴力の輸出はただちに止めなければなりません。

 私たちは次のことを、ロシア政府および、国際社会に訴えます。

1、ロシア政府は、エステミロワさんおよびサドゥラーエワさん夫妻の殺害犯と、それを指示した人間を逮捕し、公正な裁判を通して真相を明らかにすること。アンナ・ポリトコフスカヤおよびアレクサンドル・リトビネンコの暗殺事件についても、公正かつ実体のある捜査・訴追の手続きを行うこと

1、ロシア政府は、これらの事件の根にある対チェチェン政策を根本的に見直し、チェチェンの人々の政治的権利と基本的人権を保障し、チェチェン領内での国際機関、報道機関、NGOの安全と自由な活動を保証すること

1、チェチェンにおいて、人権活動家や非武装の市民が次々と殺害されたり強制的に失踪させられていること、また、その犯行を疑われる人物自身が現地政府を支配している現状に対し、国際社会は一歩踏み込んだ対策をとる必要があります。日本を含む各国政府は、国際法上の普遍的管轄権を今こそ行使し、チェチェンにおける国際人道法および国際人権法の重大な違反行為について、犯罪捜査を開始すべきです

 最後に、この声明を読んでいる皆さまへのお願いがあります。

 チェチェンに生きる人権活動家や、一般の市民が日々体験している恐怖は、想像を絶するものがあります。こうした人々に、より多くの人々が関心を持つことこそが、チェチェン問題の平和的解決につながります。とりわけ、マスメディアに携わっている方々には、より公正な報道をお願いします。

 そして、暴力のただ中で、発言を封じられている人々のためにも、この声明に賛同し、暴力に反対する意志を表明してください。多くの人々が憂慮を共有していることを、国際社会と、チェチェンの人々に伝えましょう。

 チェチェンに平和と人権を!


 呼びかけ:チェチェン連絡会議

 賛同人:青山正(市民平和基金 ピースネットニュース)
 大富亮(チェチェン連絡会議)
 岡田一男(チェチェンの子どもたち日本委員会共同代表・映像作家)
 
 英語版声明文: http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090818/1250592389 "Peace and Human Rights for Chechnya!" Statement of the Japanese People Regarding the Killing of Chechen Human Rights Defenders.
 署名一覧:http://d.hatena.ne.jp/chechen/20090812/1250258885

 (この声明はロシア大使館、日本外務省、報道各社に送付し、ロシア語または英語で、インターネット上で公開します)



●声明への賛同をお願いします! 
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この声明に関する連絡先 clc@chechennews.org
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-21 静和ビル1-A
ピースネットニュース気付 チェチェン連絡会議

電話連絡が必要な方は、メールでお名前と電話番号をお送りください。
コールバックします。

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郵便振替加入者名:チェチェン連絡会議 口座番号:00180-6-261048




次に、アムネスティ・インターナショナルの国際ニュースを転載します。
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 AMNESTY INTERNATIONAL JAPAN
 ロシア連邦 : 「人権活動家狩り」に終止符を


 今回のチェチェンで活動する人権活動家の殺害事件は、昨今のチェチェンで法の支配が完全に無視された状態が広まっていることを如実に示している、とアムネスティ・インターナショナルは述べた。

 アムネスティは、ザレマ・サドゥラエワと夫のアリク(ウマル)・ジャブライロフが殺害された件について強く非難した。遺体は今朝早く、チェチェンの首都グロズヌイで、車のトランクから発見された。2人はともに銃で撃たれていた。

 ザレマ・サドゥラエワは、ロシアの慈善団体「レッツ・セーブ・ザ・チルドレン」の代表であった。同団体はチェチェンにおいて暴力の被害にあった子どもたちを支援しており、国連児童基金(UNICEF)と緊密に連携して活動していた。

 「チェチェンの代表的な人権活動家だったナタリア・エステミロワの殺害から4週間しか経っていない。今回の新たな殺害事件は、チェチェンにおいて免責がまかり通っていることを、私たちに改めて強く示している」と、アムネスティは語った。

 「国際社会は、人権活動家の殺害について、ロシア連邦チェチェン共和国の当局が組織的に実効的な捜査をしないままでいること、それだけでなく、過去数年にわたって起きているその他のあらゆる人権侵害は、当局がこうした犯罪に少なくとも目をつぶっていることの顕著な現れであるという事実を認識しなければならない」

 「ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領とチェチェン共和国ラムザン・カディロフ大統領は殺人の加害者を見つけると公約しているが、これらにはほとんど意味がない。当局はこれまで過去数年に渡り、北コーカサスで活動する人権活動家、弁護士、ジャーナリストを殺害・拉致した犯人を裁くことがまったくできていない」

 「チェチェンでは、市民の監視の目が次第に光を失いつつある。最初は、国際的な団体やジャーナリストが同地域に入ることを禁止された。そして今、地域に根ざした市民団体がつぶされようとしている。このことは、長年にわたって北コーカサスを不安定にしてきた無法状態をさらに広げる結果にしかならない」

 ザレマ・サドゥラエワは勇気ある人権活動家であり、彼女はその活動のために政府により嫌がらせを受けてきた。4年前、彼女は北コーカサスを訪れたアムネスティ調査団に対し、当局によってどのように彼女の団体の事務所が捜索を受け、彼女のコンピューターが押収されたかを話してくれた。その際ザレマ・サドゥラエワが調査団に語ったことは、今日でも同様に起きている。

 「チェチェンにおける人権侵害は依然として収まっていない。人びとは日常的に拉致され、強制失踪させられ、殴られたり殺されたりしている。身内による申し立ては当局によって無視されている。これらはすべて、完全な情報遮断の中で起きている。ジャーナリストや独立の監視団は現地に入ることを許されていない」

 ザレマ・サドゥラエワと夫の殺害は、ロシアで活動する人権活動家の危険な現状を国際社会に警告している。事件は今年起こった、ナタリア・エステミロワと人権派弁護士スタニスラフ・マルケロフ、そしてジャーナリストのアナスタシア・バブローワの殺害に続くものである。彼らは2006年に殺害されたジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤの親しい友人であった。

 「こうした状況下において、当局がこれらの犯罪を徹底的に捜査し、政権を批判する者の殺害に政府関係者が関与している可能性の調査を続けることが非常に重要だ」と、アムネスティは述べた。

 「国際社会は、ロシア政府に圧力をかけるために具体的かつ結束した行動をとり、免責に終止符を打たなければならない」

 アムネスティ・インターナショナルは、ロシアでの人権活動家やジャーナリスト、弁護士に対する免責に終止符が打たれることを求める。

背景情報:

 今年4月、ロシア当局はチェチェンにおける「対テロ作戦」の終結を宣言した。しかし、北コーカサスではここ数カ月、地域内の緊張が高まる兆候がある中で、著名な人物の暗殺が多数起きている。

 7 月初めに発表された報告書『法なき支配:北コーカサスにおける人権侵害』において、アムネスティ・インターナショナルは、これまでに起きた人権侵害について完全な説明責任を果たすよう呼びかけている。それこそがチェチェン北コーカサスに真の安定をもたらし地域の平和を回復する唯一の道である。

アムネスティ発表国際ニュース 2009年8月11日
http://tinyurl.com/kl4sh9




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