#421 ロシアにおけるテロ事件の特徴

チェチェンニュース(転送・転載・引用歓迎)

 爆破事件が続発するロシアですが、その前後の文脈や、特務機関の「うっかりミス」などによって、実はそれらがロシア政府による自作自演であるという事実が明らかになっています。

 ニューヨークに拠点を置いている「現代ロシア研究所」のサイトに掲載された、ロシアで起こる「テロ」の背後についての論文を紹介します。

 筆者のアレクサンドル・ポドラビネク。ロシアで人権情報を伝えるPRIMA Newsを発行していた人で、現代ロシア研究所は先日ロシア政府が釈放したホドルコフスキーの息子が理事長を務めています。
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■自作自演と容疑者殺害─「ロシアにおけるテロ事件の特徴」


 ロシアにおけるテロリズムは風変わりなものだ。たとえば、自動車の中で爆弾が爆発する。あるいは飛行機の中や、駅で。それで数百人の人々が死んだり、障害を負ったりする。そんな惨劇が、何度も繰りかえされている。政府と特務機関の手によって。

 この国で起こるテロには特徴がある。まず犯行声明がないことが多い。しかし本来のテロ行為は、政府と社会を威嚇するために起こすものだから、誰が何のためにしたかが明らかにされなければ意味がない。ところがロシアでは、テロリストたちは沈黙を守るのだ。

 1999年に、モスクワとブイナフスク、ヴォルゴドンスクで起こった連続爆破事件では、まさにこの通りだった。少なくとも307人の人々が死亡し、1700人以上の人々が負傷した。政府が犯人と名指ししたチェチェン抵抗勢力からは、犯行声明はまったく出なかった。多くの独立系のアナリストたちは、この事件がテロリストの活動とはまったく関係ないと確信している。最近ヴォルゴグラードで起こったテロ事件に関しても、テロリストたちは同じやり方を繰り返している。テロリズムで大事なのは、まず事件を起こして、それからすぐに犯行声明を出すことなのに。

 ロシアで起こるテロのもう一つの特徴は、被告人がいないことだ。特殊な例外を除いて、テロリスト容疑者は法廷に連れていかれる前に警察か軍が殺す。テロ鎮圧の際には、犯人の確保は難しいというのが、当局のいつもの言い分だが、他の国々では、同じような状況でも犯人たちを逮捕して訴追している。

 2002年に、モスクワ劇場占拠事件が起こったとき、被告人になりそうな人間はあらかじめ殺してしまうというやり方がまた使われた。公式情報によれば死亡したのは36人の容疑者全員(40人という情報もある)だった。ほとんどは、特殊部隊が現場に注入した毒ガスで意識を失っている間に銃殺された(逮捕しようと思えばいくらでもできた)。しかもこの解放作戦で、150人の人質も死亡した。そのうち4人はテロリストが殺害したもので、それ以外は特殊部隊のガスによって殺害された。

 こうした、テロリストに対する即時報復行為の正当化は、ウラジーミル・プーチンが1999年に言った、「テロリストを便器にぶち込んでやる」という言葉にいきつく。それは、チェチェンの首都グローズヌイへの空爆の正当化のためでもあった。

 ロシア政府および警察と治安部隊の指導部は、ことあるごとにテロへの対応の甘さに言及し、そもそもテロリストは見つかり次第殺害せよと強調している。テロリストを殺害した場合は犯罪にはならない。テロリストが死亡していれば、捜査をする必要もないというわけだ。こうして政府はテロ事件を法廷で審理する必要がなくなり、事件についての情報を一手に握ることができることになる。

 ロシアにおけるテロのもうひとつの特徴は、不人気な政治的決定とテロ事件はほとんど同時に起こるということだ。国民の結束は異常な手段で作られる。1999年の連続アパート爆破事件は、チェチェンへの軍事侵攻とグローズヌイへの空爆によって、第二次チェチェン戦争を始めることを政治的に正当化した。また、この戦争自体が、エリツィン大統領から強硬派の情報機関出身者、プーチン首相(ともに当時)への権力の移譲に大いに役に立った。

 誰もが記憶しているだろう、2004年9月1日の北オセチア・ベスラン学校占拠事件では、子どもたちやその親、教師など1100人前後が人質になった。彼らを解放するために、ロシア特殊部隊は校舎に向かって重火器で砲撃した。そして334人が死亡し、800人が重軽傷を負った。政府はこの事件を利用して、州知事選挙を中止させた。理由は安全が確保できないということだった。

 推測だが、政府内部の派閥間闘争で、それぞれの派閥が政治的影響力を拡大するために、こうした事件を起こしている可能性も否定できない。そう考えると、最近ヴォルゴグラードで起こったテロ事件は、ソチオリンピックの直前に起こっており、社会全体の先行きの見えない雰囲気の中に非常手段を持ち込もうとしたか、あるいは現在の政治リーダー(たとえばメドヴェージェフ首相を?訳注)かを、より強硬で、自由主義的でない人物に置き換えようとする試みかもしれない。ちょうど1999年の連続爆破事件のように。

 今述べたいくつかの特徴から、こう推測することができる。数々のテロ事件は、政府自体のコントロールのもとに起こされているか、あるいは政府の自作自演によるものだ。少なくとも、特務機関の作戦行動が、テロリスト側の方針決定に影響していることはこれまでの例から見て取れる。政府や特務機関が重視する地域では、必要とあればテロリストを道具に使うことさえできるのだ。

 ところで、1999年9月にロシアの地方都市リャザンで起こった信じがたい事件を思い起こそう。街の警察官と連邦保安局(FSB)の支局員が、3人のテロリストを逮捕した。彼らは高性能爆薬ヘキソーゲンの入ったバッグを、12階建ての集合住宅の地下に置いた犯人だった。しかし彼らは連邦保安局に引き渡され、すぐに釈放された後で、これは「テロに対抗するための演習だった」と発表された。

 こんな例は他にもある。1999年9月13日に、ロシア連邦下院のゲンナジー・セレズニョフ議員は「ヴォルゴドンスクでテロが起こった」という情報をあやまって発表した。しかしこの日に起こったのはモスクワのカシエルスコエ通りでの爆破で、ヴォルゴドンスクで実際に集合住宅が爆破されたのは3日後の16日だった。明らかに当局側は、準備されているテロについての情報を把握していた。しかし彼らがそれについて説明したことはない。

 テロ事件に関する物的証拠の改竄も実に多い。その結果、公式発表に対する社会の信頼は極めて低い。もし信頼を高められるとしたら、テロ事件を法廷で訴追できたときだ。しかしそれはほとんどない上、あっても拘置所か軍施設で開廷されたあげく、公衆とメディアには非公開になる。2008年に、テロ事件は陪審制裁判の対象から除外され、そのこと自体ほとんど公示されなかった。

 ロシアのような法治の伝統のない国では驚くほどのことではないが、政府は、テロリストを法廷に送り込むよりは、直接殺害することを選んでいる。だが、もし正しく法廷で訴追を開始できさえすれば、多くの疑問の答えが得られるだろう。特務機関がテロ活動にどう関わっているかも含めて。

The Peculiarities of Terrorism in Russia
Alexander Podrabinek 08 January 2014
http://imrussia.org/en/society/636-the-peculiarities-of-terrorism-in-russia

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